【コラム】名古屋で長引く咳にお悩みの方へ ― 咳が止まらない原因と受診の目安


長引く咳に悩む方のイメージ

「先生、咳だけなんです。」

咳人(セキンチュ)外来をしていると、一日に何度も耳にする言葉です。
熱はない。息苦しさもない。胸のレントゲンにも異常がない。
それでも、咳だけが何週間、時には何か月も続くことがあります。

実は、咳の診療は想像以上に奥が深い分野です。
そして意外に思われるかもしれませんが、「なぜ咳が出るのか」は、まだ完全には解明されていません。

もちろん、のどや気管・気管支にある神経が刺激され、その情報が脳へ伝わって咳反射が起こる仕組みは分かっています。

近年の研究では、長引く咳の患者さんでは、本来なら反応しない程度の刺激でも咳が出てしまう
「咳反射過敏(cough reflex hypersensitivity)」という状態が重要であることが分かってきました。

ATPやP2X3受容体、TRPV1など、咳に関わる分子や受容体の研究は急速に進み、
この病態を標的とした新しい治療薬も実用化されています。
しかし、なぜ咳反射過敏が起こるのか、その根本的な仕組みには、まだ多くの謎が残されています。

咳は体を守るための防御反応です

一つだけ確実に言えることがあります。
咳は体を守るための防御反応です。

ホコリやウイルス、細菌、煙、痰などが肺へ入り込まないようにし、
肺の中に入った異物を外へ排出するために咳があります。

もし咳という反射がなければ、私たちは簡単に肺炎を起こしてしまいます。
つまり、咳そのものは「悪者」ではありません。

長引く咳は、「咳のスイッチ」が入りやすくなっています

咳人(セキンチュ)外来を続けていると、気づくことがあります。
長引く咳の患者さんの多くは、肺が壊れているわけではありません。

むしろ、体を守る防御反応が過剰になっている状態なのです。
本来なら反応しなくてもよい程度の刺激で、咳のスイッチが入ってしまいます。

例えば、次のような刺激で咳が出ることがあります。

  • 会話すると咳が出る
  • 笑うと咳が出る
  • 深呼吸すると咳が出る
  • 電車の冷房で咳が出る
  • 香水で咳が出る
  • 夜になると咳が出る

このように、日常の何気ない刺激で咳が出ることは、長引く咳の患者さんでは決して珍しいことではありません。

患者さんは「肺が悪いのではないか」と心配されますが、
実際には肺そのものに異常があるというよりも、
咳を起こす防御反応のスイッチが入りやすくなっていることが少なくありません。

夏になれば咳は治る?実はそうとは限りません

一般的には、乾燥する冬よりも、気温や湿度が高くなる夏は咳が落ち着きやすいと考えられています。
乾燥した空気は気道を刺激しやすく、湿度が保たれることで刺激が和らぐためです。

しかし咳人外来では、
「毎年、梅雨になると咳が悪くなるんです。」
という患者さんも少なくありません。

梅雨は気圧の変化が大きく、気温や湿度も変わりやすい季節です。
また、カビやダニなどのアレルゲンも増えやすくなります。

アレルギーが関係している咳では、
アレルギー検査
が原因を考える手がかりになることがあります。

実際に、気温差や湿度、気圧などの気象条件が気道の病気に影響することは以前から報告されており、
特に喘息では、こうした気象の変化によって症状が悪化しやすくなることが知られています。

一方で、気象の変化が、なぜ長引く咳を悪化させるのか、
その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていません。

つまり、一般的には夏になると咳は落ち着きやすいと考えられていますが、
「夏だから必ず良くなる」とは言い切れず、梅雨の時期に咳が悪化しやすい方もいるのです。

長引く咳は「のど」と「気管支」が重要です

咳は、のど(咽喉頭)や気管・気管支だけでなく、
食道や胸膜など、さまざまな場所からの刺激によって起こる防御反応です。
その刺激は神経を介して脳へ伝わり、咳反射が引き起こされます。

ただ、長引く咳を診療するときには、
「のど」と「気管支」のどちらで咳のスイッチが入りやすくなっているのかを考えると、
原因や治療方針を整理しやすくなります。

① のど(咽喉頭)の防御

のどは肺への入り口です。
食べ物や唾液、煙、ウイルスなどが入ろうとすると、すぐに反応します。

この防御反応が過敏になると、次のような症状が起こります。

  • のどのイガイガ
  • 咳払い
  • 会話で咳
  • 香水で咳
  • 冷気で咳

実際には「気管支」ではなく、「のど」の過敏性が主役になっている患者さんも少なくありません。

② 気管支の防御

もう一つは気管支です。
肺を守る最前線であり、感染やアレルギーなどによって気管支に炎症が起こると、
咳の刺激を感じ取る神経が過敏になり、わずかな刺激でも咳が出やすくなります。

特徴的な症状として、次のようなものがあります。

  • 夜間の咳
  • 明け方の咳
  • 運動で咳
  • 冷気で咳
  • 横になると咳

長引く咳では危険な病気を見逃さないことが大切です


胸部レントゲン画像を指し示しながら説明する医師の写真。肺の影や炎症を確認する様子のイメージ。

長引く咳の多くは咳反射過敏によるものですが、すべてがそうとは限りません。

咳人(セキンチュ)外来では、
2週間以上続く咳では胸部レントゲンをおすすめしています。

また、咳き込みが非常に強い場合、夜も眠れないほどの咳、血痰、発熱や息切れを伴う咳では、
期間にかかわらず早めの受診をおすすめします。

その理由は、肺や気管支だけでなく、心臓の病気が隠れていることもあるからです。
心不全などの心臓の病気が咳の原因となることもあり、
胸部レントゲンはそのような病気を見つける手がかりにもなります。

胸部レントゲンの被ばくを心配される方もいらっしゃいます。
しかし、胸部レントゲンの被ばく線量は非常に少なく、
自然界から1〜2日程度に受ける放射線量と同程度とされています。

そのため、必要な胸部レントゲンを過度に心配して避けるよりも、
肺炎や肺がん、結核などの重大な病気を見逃さないことの方が重要です。

胸部レントゲンの被ばくについては、こちらのコラム
「胸部レントゲン検査の被ばくについて」
でも詳しく解説しています。

長引く咳では、例えば次のような病気を確認する必要があります。

  • 肺炎
  • マイコプラズマ肺炎
  • 百日咳
  • 結核
  • 肺がん
  • 間質性肺炎
  • 心不全

咳の多くは咳反射過敏によるものですが、「多くは」であって「すべて」ではありません。
だからこそ、まず危険な病気を除外することが重要です。
胸部レントゲン1枚で診断の方向性が大きく変わることもあります。

当院では、胸部レントゲン検査において、医師の読影を補助するAI画像解析技術
「CXR Finding-i」を導入しています。
胸部X線画像を確認する際の補助として活用し、より丁寧な診療につなげています。
詳しくは、
最新の医療技術「CXR Finding-i」導入のお知らせ
をご覧ください。

胸部レントゲンで異常が疑われる場合や、より詳しい評価が必要な場合には、
呼吸器内科で行う検査
を検討することがあります。

咳喘息は見逃されやすい病気です

咳喘息や長引く咳に悩む方のイメージ

長引く咳の原因として多い病気の一つが、咳喘息です。

喘息というと、「ゼーゼー、ヒューヒューする病気」と思われがちです。
しかし実際には、咳だけの喘息が存在します。

咳喘息では、次のような症状がみられることがあります。

  • 夜中の咳
  • 明け方の咳
  • 冷たい空気で咳が出る
  • 運動すると咳が出る
  • 風邪のあと咳だけが残る

市販薬では改善せず、吸入治療で大きく改善することも少なくありません。

咳喘息や喘息が疑われる場合には、
呼吸機能検査
などで気道の状態を確認することがあります。

咳喘息について詳しくは、
咳喘息
でも解説しています。

マイコプラズマ肺炎や百日咳は大人でもみられます

マイコプラズマ肺炎は子どもの病気という印象がありますが、大人でも決して珍しくありません。
乾いた咳が長く続き、微熱や倦怠感を伴うことがあります。

また、最近では大人の百日咳も増えています。
最初は普通の風邪のようでも、途中から激しい咳込みが続き、
「咳で眠れない」「咳込みで吐いてしまう」ということもあります。

特に高齢の方では結核も忘れてはいけません

結核というと、「昔の病気」という印象を持つ方も多いかもしれません。

実際には、日本の結核罹患率は人口10万人あたり8.1人と、以前に比べ大きく減少し、
低まん延国の水準となっています。
一方で、人口全体では毎年約1万人が新たに結核を発症しており、その多くは高齢の方です。

現在80歳以上の方の中には、若い頃に結核菌へ感染し、
そのまま体内に菌を持っている「潜在性結核感染」の方が少なくないと考えられています。

ここで大切なのは、「感染していること」と「発症していること」は全く別であるということです。

結核菌を体内に持っていても、多くの方は免疫の力によって菌を抑え込んでおり、一生発症しません。
しかし、加齢や糖尿病、がんの治療、免疫を抑える薬の使用などをきっかけに、
何十年も眠っていた菌が活動を始め、結核を発症することがあります。

一方で、若い方でも結核を発症することはあります。
長引く咳や発熱、体重減少などが続く場合には、年齢にかかわらず結核を含めた評価が必要です。

そのため、2週間以上咳が続く場合には、年齢を問わず胸部レントゲンなどで原因を確認することが重要です。
特に高齢の方では、過去の感染が背景にある結核も念頭に置いて診療を行います。

肺がんを心配される方へ

咳が続くと、多くの方が肺がんを心配されます。
もちろん可能性はゼロではありません。
しかし実際には、長引く咳の原因として肺がんが見つかる頻度は決して高くありません。

ただし、次のような場合は注意が必要です。

  • 血痰
  • 体重減少
  • 喫煙歴
  • レントゲン異常

だからこそ、咳が長引く場合には胸部レントゲンが重要なのです。

咳止めだけでは治らないことがあります

患者さんから、「強い咳止めをください。」と言われることがあります。

しかし、咳は症状であって病名ではありません。

咳喘息なのか。感染後咳嗽なのか。百日咳なのか。
副鼻腔炎なのか。逆流性食道炎なのか。
原因によって治療は全く異なります。

咳止めだけで治そうとすると、本当の原因が見逃されてしまうこともあります。

名古屋で長引く咳にお悩みの方へ

咳は単なる風邪の名残とは限りません。
また、「原因不明」で終わる症状でもありません。

防御反応が敏感になっているだけの場合もあれば、
咳喘息や感染症、肺の病気が隠れていることもあります。

もし咳が2週間以上続いているなら、一度きちんと評価を受けることをおすすめします。
レントゲンを撮るだけで見えてくる病気があります。

そして、その咳には必ず理由があります。
その理由を一つひとつ見つけ、患者さん一人ひとりに合った治療につなげることが、
私たち呼吸器内科の役割だと考えています。


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