運動誘発喘息(アスリート喘息)exercise-induced-asthma

こんな症状はありませんか?(セルフチェック)

次の項目に一つでも当てはまる場合、運動誘発喘息の可能性があります。

  • 運動中、または運動後に咳が止まらなくなる
  • 走ると息苦しくなり、呼吸が追いつかない感じがする
  • 運動後に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が出る
  • 寒い時期の運動で特に症状が出やすい
  • 運動後しばらくしてから咳や息苦しさが出ることがある
  • 夜間や翌朝に咳が残ることがある
  • 「体力不足」「年齢のせい」と言われたが、毎回同じ症状が出る
  • 水泳では比較的楽に運動できる

これらは体力の問題ではなく、気道の反応による症状かもしれません。気になる場合は、一度ご相談ください。


運動誘発喘息とは

気道(空気の通り道)に炎症が起こり、狭くなることで呼吸がしづらくなる病気を気管支喘息といいます。
その中でも、運動をきっかけに一時的に症状が出るタイプを「運動誘発喘息(アスリート喘息)(Exercise-Induced Asthma)」と呼びます。

運動時に呼吸量が急激に増えることで気管支が一時的に収縮し、咳や息苦しさ、喘鳴(ヒューヒュー・ゼーゼー)などが出現します。
多くの場合、運動を中止して呼吸を整えれば5〜10分程度で自然に治まります。

もともと喘息をお持ちの方では起こりやすく、喘息の重症度が高いほど誘発されやすい傾向があります。


実は、誰にでも起こりうる症状です

運動誘発喘息は、特別な病気ではありません。普段は健康な方でも、全力で走ったときや寒い外気の中で運動した際に、
気道が刺激されて一時的に咳や息苦しさが出ることがあります。

「運動中だけ呼吸がつらい」「走ると咳が止まらない」といった症状は、体力不足ではなく気道からのサインである可能性があります。


年代別の特徴

小中学生の特徴

小中学生は学校生活で走る・跳ぶ機会が多く、運動誘発喘息が表に出やすい年代です。
特に寒い時期の体育のあとに咳き込んだり、息苦しさを訴えることがあります。

「風邪かな」「疲れただけ」と見過ごされがちですが、子ども自身が症状をうまく説明できないことも多いため、
周囲の大人が気づくことが重要です。運動のたびに咳が出る場合は、医学的な評価が必要なことがあります。

高校生の特徴

高校生では部活動などで運動量や強度が増え、症状がはっきり出るケースがあります。
「気合いで何とかなる」と無理をしやすい年代でもあるため注意が必要です。

指導者や保護者が早い段階で変化に気づき、適切に対応することで重症化を防ぐことができます。

大人の特徴

大人の場合、「体力が落ちた」「年齢のせい」と思い込み、受診が遅れることが少なくありません。
ジョギングやジム通いを始めたあと、運動のたびに咳や違和感が続く場合は、気道の過敏反応の可能性があります。

ストレスや睡眠不足、気温差なども影響するため、生活背景も含めた評価が重要です。


主な症状

運動中または運動後に、以下の症状がみられます。

  • 咳込み
  • 息切れ
  • 息苦しさ
  • 「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴

症状の出方には、主に次の二つのタイプがあります。

  • 即時型:運動中〜終了直後に出現
  • 遅延型:運動後6〜12時間してから出現

遅延型では原因に気づきにくいため、数時間前の運動を振り返ることが大切です。


原因

運動により呼吸が増えると、冷たく乾いた空気が急速に気道へ流れ込みます。
この刺激が気道の収縮を引き起こし、症状が出ると考えられています。

そのため、冬季や乾燥した環境では特に起こりやすくなります。


どのような運動で起こりやすい?

呼吸量が大きく増える、持久系の運動で誘発されやすい傾向があります。

  • ランニング
  • サッカー
  • テニス
  • バスケットボール
  • 寒冷環境でのランニング
  • スケート・スキー

水泳で起こりにくい理由

水泳は、運動誘発喘息が比較的起こりにくい運動とされています。

  • 水面付近は湿度が高く、気道が乾燥しにくい
  • 冷たい空気を直接吸い込むことが少ない
  • 息を長く吐く呼吸パターンとなり、気道への刺激が軽減される

検査・診断

経験のある呼吸器内科専門医であれば、問診と診察だけで診断に至るケースがほとんどです。
症状の出方、運動との関係、喘鳴の有無などを丁寧に確認することで、十分に判断できます。

必要に応じて、呼吸機能検査(スパイロメトリー)や呼気NO測定を行い、他の疾患との鑑別を行います。
確定診断のために運動負荷試験が必要と判断した場合は、対応可能な専門医療機関へ速やかに紹介いたします。


治療

長期管理薬によるコントロール

症状が軽くても、運動のたびに症状が出る場合は、日常の喘息コントロールが不十分というサインです。

治療の中心となる薬剤は以下のとおりです。

  • 吸入ステロイド
  • 長時間作用型気管支拡張薬
  • ロイコトリエン受容体拮抗薬

アスリートの方へ

競技レベルによっては使用できない薬剤があります。使用可能な薬剤でも、
除外措置申請(TUE)が必要な場合がありますので、事前にご相談ください。


予防方法

  • 日頃から吸入ステロイドでコントロールする
  • 急激な運動を避け、日常的にトレーニングを継続する
  • 運動前に十分なウォーミングアップを行う
  • 運動開始15分前に短時間作用型気管支拡張薬を吸入する
  • 冬場はマスクを着用し、冷気刺激を避ける

運動制限は必要ですか?

適切に治療を行えば、原則として運動制限は不要です。喘息があっても、多くの方がスポーツを問題なく続けられます。


当院での診療の流れ

  1. ① 問診
    症状や経過、運動との関連を詳しく確認します。
  2. ② 身体診察
    呼吸音、喘鳴、酸素飽和度を確認し、必要に応じてその場で吸入治療を行います。
  3. ③ 薬の処方・専門施設への紹介
    運動負荷試験が必要な場合は専門医療機関へ紹介します。治療中の方には薬の調整・処方、運動のやり方のアドバイスを行います。

最後に(当院の治療方針)

喘息治療の目的は、症状を抑えることだけではありません。
「やりたいことを、思い切りできる状態に戻すこと」が治療の目的です。

当院では、運動誘発喘息があるだけで運動制限を行うことはありません。ただし、発作時など一時的な制限が必要な場合はあります。

運動時の咳や息苦しさは、「体力不足」ではなく治療できる症状かもしれません。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 運動誘発喘息は特別な病気ですか?

A. いいえ。普段は健康な方でも、全力運動や寒い環境で一時的に起こることがあります。

Q2. 子どもでもなりますか?

A. はい。特に小中学生は体育や部活動で気づかれやすい年代です。

Q3. 診断には検査が必要ですか?

A. 多くの場合、問診と診察で診断できます。必要な場合のみ専門機関へ紹介します。

Q4. 水泳はなぜ症状が出にくいのですか?

A. 湿度が高く、冷気刺激が少なく、ゆっくり息を吐く呼吸になるためです。

Q5. 運動はやめたほうがいいですか?

A. 適切に治療できていれば、原則として運動制限は不要です。

Q6. 大人になってからでも発症しますか?

A. はい。大人になってから気づかれるケースも少なくありません。

Q7. アスリートでも治療できますか?

A. 可能です。競技規定に配慮した薬剤選択やTUEが必要な場合がありますので、事前にご相談ください。


参考

  • 日本アレルギー学会「喘息予防・管理ガイドライン」
  • American Thoracic Society(ATS)Exercise-induced Bronchoconstriction Guideline:
    参照
  • 労働者健康安全機構「喘息をもつ方への運動療法」:
    PDF