喘息は治るのか?「寛解」と「治癒」の違いを呼吸器専門医が解説

緑の中で伸びをする女性

「喘息は治りますか?」

診察室でよくいただく質問の一つです。

大人になってから発症した喘息について、端的に答えるなら「治りません」の一言で終わってしまします。 本コラムではこういう言い方はしません。確かに、成人になってから発症した喘息は、完全に治すことが難しい病気です。一方で、小児喘息では成長とともに症状が消失し、その後も長期間、薬を必要としなくなることがあります。また、成人になってから発症した喘息でも、まれではありますが、治療薬を使わずに安定した状態が続く方もいます。

つまり、喘息は必ずしも一生症状に悩まされる病気ではなく、なかには治癒したと考えられる状態に至る方もいるのです。

一方、子どもの喘息は大人の喘息とは経過が異なります。 成長とともに症状がなくなり、薬を使わずに過ごせるようになる子どももいます。

では、大人の喘息は本当に治らないのでしょうか。症状がなくなれば、薬をやめてもよいのでしょうか。

この記事では、喘息の診療に携わってきた呼吸器専門医の立場から、喘息が治るということの意味、「寛解」と「治癒」の違い、治療を続ける重要性について解説します。

1.大人の喘息は治るのか?

大人になってから発症した気管支喘息では、症状が長期間落ち着いていても、治療を中止すると再び症状が現れることがあります。

喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、気道が刺激に対して過敏になる病気です。咳、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)、息苦しさなどが現れます。

喘息の症状は、毎日続くとは限りません。季節の変わり目、風邪、運動、冷たい空気、アレルゲンなどをきっかけに悪化することもあれば、しばらく症状がまったくないこともあります。

しかし、症状がないことと、気道の炎症や過敏性が完全になくなったことは同じではありません。

そのため、大人の喘息では、症状が落ち着いたからといって自己判断で吸入薬を中止することは勧められません。

ただし、すべての方が一生同じ量の薬を使い続けなければならないわけでもありません。治療によって十分なコントロールが得られた場合には、医師の判断で薬を減らせることがあります。また、長期間にわたって症状がなくなり、治療を必要としない状態に至る方もいます。

大切なのは、「治るか、治らないか」という二択だけで考えず、どの程度まで症状や炎症を抑えられているのか、治療を減らせる状態なのかを評価することです。

2.子どもの喘息は大人の喘息と違う

子どもの喘息では、成長に伴って症状が軽くなったり、薬を使わなくても症状が出ない状態になったりすることがあります。

子どもの気道は成長とともに発達します。また、喘息の発症や経過には、アレルギー体質、遺伝的な要因、気道の状態、環境など、さまざまな要素が関係しています。

そのため、子どもの頃に喘息と診断されたからといって、大人になっても必ず喘息が続くわけではありません。

一方で、子どもの頃に症状がなくなっていても、成人後に再び咳や喘鳴が現れることがあります。症状が長期間なかった場合でも、喘息の再発が絶対にないとはいえません。

また、子どもの喘息でも、全員が自然に治るわけではありません。症状が続く場合や、重症化する場合もあります。

子どもの喘息は成長とともに改善する可能性がありますが、大人になってから発症した喘息とは分けて考える必要があります。

3.喘息の「寛解」と「治癒」は何が違う?

喘息について調べていると、「寛解」「完全寛解」「無治療寛解」「治癒」といった言葉を目にすることがあります。

これらは同じ意味ではありません。

現在の喘息診療では、症状や増悪が抑えられている状態を適切に評価するため、「臨床的寛解」という考え方が重視されています。

臨床的寛解:治療を続けながら、喘息が十分に落ち着いている状態

日本の「喘息予防・管理ガイドライン2024(JGL 2024)」では、臨床的寛解について、次の4項目を満たす状態が示されています。

  • 全身性ステロイド薬を必要とする喘息の増悪がない
  • 喘息の症状が十分にコントロールされている
  • 継続的な経口ステロイド薬の使用がない
  • 呼吸機能が正常化、または安定化している

これらの状態を1年間維持することが、JGL 2024における臨床的寛解の基準です。

症状のコントロールは、ACT(喘息コントロールテスト)やACQ(喘息コントロール質問票)などを用いて評価します。JGL 2024では、成人のACT 23点以上、またはACQ 0.75以下などが目安として示されています。呼吸機能についても、年齢や病状に応じて評価します。

ここで重要なのは、臨床的寛解は、吸入薬などの治療を続けている状態でも達成できるという点です。

治療によって症状がなく、増悪もなく、呼吸機能が良好に保たれていれば、喘息が十分にコントロールされていると評価できます。

ただし、臨床的寛解は「喘息が完全に治った」という意味ではありません。

完全寛解:症状だけでなく、客観的な異常も改善した状態

「完全寛解」という言葉は、喘息の研究や小児喘息の経過を説明する際などに用いられることがあります。

一般的には、症状がないだけでなく、呼吸機能が正常化し、気道過敏性などの異常も改善している状態を指します。

ただし、喘息の「完全寛解」には、すべての診療ガイドラインに共通する単一の定義があるわけではありません。

JGL 2024では、臨床的寛解を「完全寛解」「部分寛解」などに細かく分類する方式は採用されていません。 そのため、「完全寛解なら必ず何年間必要」と、JGL 2024の基準として一律に説明するのは正確ではありません。

また、炎症を示す指標や気道過敏性の検査結果だけで、喘息が治ったかどうかを判断することもできません。症状、増悪、呼吸機能、治療内容などを総合的に評価する必要があります。

無治療寛解:薬を使わなくても、喘息の症状がない状態

治療を続けながら症状が落ち着いている状態と、薬を使わなくても症状がない状態は区別する必要があります。

無治療寛解は、喘息の治療薬を使用していない状態で、症状や増悪がなく、呼吸機能も良好に保たれている状態を指す考え方です。

JGL 2024に関連する専門家コンセンサスでは、症状がなく、増悪もなく、薬を使わず、呼吸機能が最適化された状態が少なくとも1年間続くことが、無治療寛解の考え方として支持されています。

ただし、これは薬を自己判断で中止してよいという意味ではありません。薬を減らす、あるいは中止するかどうかは、これまでの増悪歴、呼吸機能、治療内容などを踏まえて医師が判断します。

臨床的治癒:無治療の状態が5年以上続いた場合

では、喘息が「治った」といえるのは、どのような状態でしょうか。

JGL 2024に関する専門家コンセンサスでは、薬を使わない寛解状態が5年以上続いた場合を「臨床的治癒」とする考え方が支持されています。

さらに、気道過敏性も正常化または安定化している状態は、「機能的治癒」という考え方に相当します。

ここで、期間について誤解しないことが重要です。

5年というのは、臨床的寛解に到達するまでに5年かかるという意味ではありません。無治療の寛解状態が長期間、具体的には5年以上続いた場合の「治癒」の考え方です。

なお、これらは喘息の状態を評価するための専門的な概念です。5年間症状がなければ、その後の再発が絶対にないと保証されるわけではありません。

4.喘息は、どこまで治療で改善できるのか?

喘息の治療で目指すのは、単に咳を止めることだけではありません。

症状を抑え、発作や増悪を防ぎ、呼吸機能を維持し、日常生活への影響をできるだけなくすことが重要です。

適切な治療を続けることで、次のような状態を目指せます。

  • 夜間の咳や息苦しさがなく、ぐっすり眠れる
  • 運動や外出を過度に制限せずに生活できる
  • 発作や救急受診を減らせる
  • 呼吸機能を良好に保てる
  • 病状が安定すれば、医師の判断で薬を減らせる可能性がある

一方、症状がなくなったからといって、気道の炎症が完全になくなったとは限りません。

吸入薬を中止した後に症状が再び現れる方もいます。症状を繰り返している場合や、増悪が多い場合には、治療内容だけでなく、吸入方法、薬の使用状況、アレルゲンへの曝露、鼻炎などの合併症も確認する必要があります。

5.吸入薬は一生続けなければならない?

「喘息と診断されたら、一生吸入薬を使い続けなければならないのでしょうか?」

これもよくある質問です。

答えは、必ずしも一生、同じ薬を同じ量で続けるわけではありません。

喘息の治療では、症状や増悪の状況、呼吸機能などを確認しながら、必要な治療を調整します。十分に安定した状態が続けば、医師の判断で治療を段階的に減らせる場合があります。

ただし、自己判断で吸入薬を中止することは避けてください。

症状がなくなっているのは、薬によって炎症が抑えられているためかもしれません。薬を中止したことで炎症が再び強くなり、発作につながる可能性があります。

特に、過去に強い発作を起こした方、全身性ステロイド薬を必要としたことがある方、入院歴がある方などでは、治療を減らす際に慎重な判断が必要です。

薬を減らせるかどうかは、症状がないという一点だけでなく、これまでの病状と現在の検査結果を踏まえて判断します。

6.治療しても喘息がよくならない場合は?

吸入薬を使っていても咳や息苦しさが続く場合には、単純に「喘息が治らない」と考える前に、原因を確認することが大切です。

例えば、次のような要因が関係していることがあります。

  • 吸入薬の使い方が適切でない
  • 薬を十分に使用できていない
  • アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などを合併している
  • 喫煙や受動喫煙、職場環境などの影響がある
  • 逆流性食道炎など、咳を引き起こす別の病気がある
  • 喘息以外の病気が症状に関係している

また、標準的な治療を適切に行っても十分にコントロールできない場合には、重症喘息の可能性も検討します。

重症喘息では、病状や炎症のタイプに応じて、生物学的製剤と呼ばれる注射薬などが治療の選択肢になります。

ただし、咳が続いている方すべてが重症喘息というわけではありません。喘息の診断そのものを再確認したり、別の原因を調べたりすることも重要です。

治療を続けても改善しない場合は、薬を増やすことだけでなく、診断や治療方法を見直すことが必要です。

7.大人の喘息でも、寛解を目指すことはできる

大人の喘息では、完全に治癒したといえる状態に至ることは簡単ではありません。特に、薬を使わずに長期間症状がない状態を維持することは、すべての患者さんに期待できるわけではありません。

しかし、治癒が難しいことと、症状を十分に抑えられないことは別の問題です。

適切な治療によって、症状がなく、発作を起こさず、呼吸機能を良好に保ち、日常生活を制限せずに過ごすことは、喘息治療の重要な目標です。

さらに、病状が安定すれば、治療を減らせる可能性もあります。

「喘息は治らないから仕方がない」とあきらめる必要はありません。一方で、「症状がなくなったから治った」と自己判断して治療を中止することも勧められません。

大切なのは、自分の喘息がどの程度コントロールされているのかを知り、適切な治療を続けながら、よりよい状態を目指すことです。

まとめ:喘息は治るのか?

大人の喘息は、完全に治癒したといえる状態に至るとは限りません。しかし、適切な治療によって症状や発作を抑え、普段どおりの生活を送れる状態を目指すことができます。

子どもの喘息では、成長とともに症状がなくなり、薬を必要としなくなることもあります。

喘息の状態を評価する際には、治療中の「臨床的寛解」、薬を使わない「無治療寛解」、無治療の寛解が5年以上続いた場合の「臨床的治癒」などを区別して考える必要があります。

喘息は、単に「治る」「治らない」だけでは判断できない病気です。症状が落ち着いている方も、咳や息苦しさが続いている方も、自己判断で薬を中止せず、呼吸器内科で現在の状態を確認することをお勧めします。

関連ページ

参考文献・参考情報

  1. Nagase H, et al. Consensus definition of clinical remission in asthma for the Japanese asthma prevention and management guidelines (JGL 2024): A modified delphi survey and comprehensive review. Allergology International. 2026;75(1):3–14.
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  2. 日本アレルギー学会 喘息予防・管理ガイドライン2024(JGL 2024)。
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  3. 日本呼吸器学会「喘息」一般向け情報。
    日本呼吸器学会の解説ページ

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。治療薬の減量や中止は、個々の病状に応じた医師の判断が必要です。