【コラム】非結核性抗酸菌症(NTM症)|肺MAC症・症状・治療

「結核ではないと言われたけれど、抗酸菌が見つかった」
「肺MAC症と言われたけれど、すぐに治療が必要なの?」
「咳や痰が長く続いているけれど、非結核性抗酸菌症ではないか心配」

このような相談を受けることがあります。

非結核性抗酸菌症(NTM症)は、結核菌以外の抗酸菌によって起こる感染症です。肺に病変をつくる「肺非結核性抗酸菌症」が多く、その中でも肺MAC症が代表的です。

非結核性抗酸菌は、土や水など私たちの身の回りの環境に存在しています。結核とは異なり、通常は人から人へ感染する病気ではありません。

一方で、NTMが検出されたからといって、すぐに薬による治療が必要とは限りません。菌の種類、症状、胸部画像の変化、喀痰検査の結果などを総合して、治療するか経過を見るかを判断します。

当院では、長引く咳や痰、胸部X線・CTで肺の異常を指摘された方について、結核を含めて原因を確認し、必要に応じて専門医療機関と連携しながら診療しています。

非結核性抗酸菌症(NTM症)とは

抗酸菌という名前から「結核と同じ病気なのでは?」と思われる方もいますが、非結核性抗酸菌(NTM)は結核菌とは別の菌です。

NTMは、土壌や水など自然環境の中に広く存在しています。

人がNTMを吸い込んだり、環境中の菌に接触したりすることは珍しいことではありません。しかし、菌を吸い込んだからといって、必ず病気になるわけではありません。

NTMによって肺に病気を起こしたものを、肺非結核性抗酸菌症と呼びます。


非結核性抗酸菌症は、いつから知られている?

「非結核性抗酸菌症」という病名を聞くと、比較的新しい病気のように感じるかもしれません。

しかし、その歴史をたどると、出発点は明治時代の結核研究にまでさかのぼります。

1882年、ドイツの細菌学者ロベルト・コッホが結核菌を発見しました。その後、結核菌を顕微鏡で見つけるための染色法が発達し、明治時代にはすでに、痰などの検体から抗酸性を示す菌を顕微鏡で確認する検査が行われていました。

ただし、当時は現在のように「抗酸菌には結核菌以外にも多くの種類がある」ということが十分に分かっていたわけではありません。

明治・大正時代には、抗酸菌=ほぼ結核菌だった

現在では、抗酸菌の中には結核菌以外にも非常に多くの種類があることが分かっています。

しかし明治・大正時代には、菌を詳しく分類する技術がまだ十分ではありませんでした。

結核菌とは異なる抗酸菌の存在は少しずつ知られるようになっていましたが、それらが人の肺に慢性的な病気を起こすという現在のような考え方は、まだ確立していませんでした。

つまり当時は、

「抗酸菌が見つかった」=まず結核を考える

という時代だったのです。

「抗酸菌だけれど結核ではないから大丈夫」という現在のような考え方ができる状況ではありませんでした。

昭和になって、結核とは違う抗酸菌が注目されるように

第二次世界大戦後になると、結核菌とは性質の異なる抗酸菌が、結核に似た肺の病気を起こすことが少しずつ分かってきました。

1950年代には、こうした菌は**「非定型抗酸菌(atypical mycobacteria)」**などと呼ばれるようになり、日本でも研究が進みました。

当時は、こうした菌が本当に病気の原因なのか、それとも検査材料に偶然混じっただけなのかを判断することが難しい場合もありました。

しかし、同じ菌が繰り返し検出される患者さんや、実際に肺の病変を起こしている患者さんが数多く報告されるようになり、結核菌とは別の抗酸菌が人の病気を起こすことが医学的に認識されていきました。

その後、菌の分類や培養、遺伝子検査などが進歩し、現在では「非結核性抗酸菌(NTM)」という呼び方が一般的になっています。

「抗酸菌が見つかった」から「何の菌なのかを調べる」時代へ

この歴史を知ると、現在の検査結果の意味が分かりやすくなります。

昔は、

抗酸菌が見つかる → 結核を疑う

というのが基本でした。

現在は、

抗酸菌が見つかる → 結核菌なのか、非結核性抗酸菌なのかを調べる

という時代になっています。

さらに、非結核性抗酸菌が検出されたとしても、「菌が見つかった=すぐに治療が必要」というわけではありません。

菌の種類、咳や痰などの症状、胸部X線・CTの所見、菌が繰り返し検出されるか、病変が進行しているかなどを総合して、本当に病気を起こしているのか、治療が必要なのかを判断します。

明治・大正時代には難しかったことが、現在では菌種を詳しく調べる検査や画像検査の進歩によって、より正確に判断できるようになっています。


結核と非結核性抗酸菌症は何が違う?

結核とNTM症は、どちらも「抗酸菌」というグループの菌が関係しますが、重要な違いがあります。

結核非結核性抗酸菌症
原因菌結核菌結核菌以外の抗酸菌
代表的な病気肺結核肺MAC症など
主な感染源結核患者からの感染土・水などの環境中の菌
人から人への感染あり通常はない
治療原則として治療が必要治療せず経過を見る場合もある
治療期間数か月にわたる長期間になることがある

特に大切なのは、NTM症は通常、人から人へうつる病気ではないという点です。

そのため、肺MAC症などと診断されても、結核のように家族や周囲の人への感染を心配して、過度に生活を制限する必要は通常ありません。

ただし、まず本当に結核ではないのかを確認することが重要です。

「抗酸菌が陽性」=「結核」ではありません

喀痰検査などで「抗酸菌陽性」と言われると、結核だと思ってしまう方も少なくありません。

しかし、抗酸菌には結核菌以外にもさまざまな種類があります。

そのため、

抗酸菌が見つかった
↓
結核菌なのか、非結核性抗酸菌なのかを確認する
↓
NTMであれば、さらに菌種を確認する

という検査が重要になります。

特に、結核とNTMでは、感染対策や治療方針が大きく異なります。

「抗酸菌が出た」と言われた場合には、結核菌が検出されたのか、それともNTMだったのかを確認することが大切です。

肺MAC症とは?

肺MAC症は、非結核性抗酸菌症の中でも代表的な病気です。

MACは、**Mycobacterium avium complex(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)**の略で、主に

  • Mycobacterium avium
  • Mycobacterium intracellulare
  • Mycobacterium chimaera

などが含まれます。

肺MAC症では、咳や痰が続いたり、胸部画像で肺に特徴的な陰影が見つかったりすることがあります。

ただし、肺MAC症と診断されたからといって、全員がすぐに治療を始めるわけではありません。

症状がほとんどなく、画像の変化も乏しい場合には、定期的に検査を行いながら経過を見ることもあります。

どのような人に肺MAC症が多い?

肺MAC症は、特定の年齢や性別だけに起こる病気ではありません。

中高年の女性に多くみられることが知られていますが、男性にも発症します。

また、

  • 気管支拡張症がある
  • 過去に肺の病気をしたことがある
  • 慢性的な呼吸器疾患がある
  • 免疫機能が低下している

などの場合には、肺NTM症に注意が必要です。

一方で、明らかな基礎疾患がない方に発症することもあります。

「自分は健康だからNTM症にはならない」とは言い切れません。

症状は長引く咳や痰が中心です

肺NTM症では、次のような症状がみられることがあります。

  • 長引く咳
  • 痰が続く
  • 痰の量が増える
  • 血痰
  • 微熱
  • 倦怠感
  • 体重減少

ただし、症状がほとんどないまま、健康診断や他の病気の検査で胸部X線の異常を指摘され、そこから詳しく調べてNTM症が見つかることもあります。

そのため、症状の強さだけで病気の進行度を判断することはできません。

非結核性抗酸菌症の画像検査

肺NTM症では、胸部X線検査と胸部CT検査の両方が役立ちます。

胸部X線では、肺の結節影や浸潤影、空洞などの異常を見つけるきっかけになることがあります。

一方、胸部CTでは、X線写真だけでは分かりにくい小さな結節や気管支拡張、細かい粒状影、空洞などをより詳しく確認できます。

特に、肺NTM症の診断では胸部CTによる画像評価が重要で、2024年に改訂された国内の診断指針でも、診断時には胸部CT画像を用いることが示されています。

ただし、画像だけで肺NTM症と診断することはできません。

症状、胸部X線・CTなどの画像所見、喀痰検査などを組み合わせて診断します。

NTMが見つかっても、すぐに治療とは限りません

ここは、肺NTM症を理解するうえで非常に重要なところです。

肺からNTMが検出されたとしても、「菌がいる=すぐに薬を飲まなければならない」というわけではありません。

治療を開始するかどうかは、

  • 咳や痰などの症状
  • 胸部画像の変化
  • 空洞の有無
  • 気管支拡張の程度
  • 喀痰から検出される菌の状況
  • 菌種
  • 年齢や基礎疾患
  • 治療による副作用の可能性

などを総合して判断します。

病気の進行がゆっくりで、症状も軽い場合には、**定期的な胸部X線・CTや喀痰検査などで経過を確認する「経過観察」**が選択されることもあります。

逆に、画像が徐々に悪化している場合や、空洞がある場合、症状が強い場合などでは、治療を積極的に考える必要があります。

つまり、肺NTM症では、「診断されたら全員治療」ではなく、「その人にとって治療を始めるべき時期を判断する」ことが大切です。

非結核性抗酸菌症の治療

肺MAC症では、基本的に複数の抗菌薬を組み合わせて治療します。

代表的な基本治療は、

  • リファンピシン(RFP)
  • エタンブトール(EB)
  • クラリスロマイシン(CAM)またはアジスロマイシン(AZM)

の3剤併用療法です。

NTM症は結核と違い、1種類の薬だけで治療するのではなく、複数の薬を組み合わせて治療することが基本です。

また、病気のタイプや重症度によっては、治療開始時に

  • ストレプトマイシン(SM)
  • アミカシン(AMK)

などのアミノグリコシド系薬を追加することがあります。

特に、空洞を伴う場合や、重度の気管支拡張を伴う場合などでは、より積極的な治療が検討されます。

アミノグリコシド系薬は、聴力障害や腎機能障害などに注意が必要な薬剤です。そのため、特に高齢の方などでは、副作用とのバランスを考えながら治療を行います。

また、肺NTM症の治療は長期間に及ぶことがあります。

「薬を飲み始めたら、すぐに治る」という病気ではないため、治療中も喀痰検査や画像検査などで病気の状態を確認しながら、治療を継続していきます。

空洞をつくるタイプでは、より注意が必要です

肺NTM症では、肺の中に「空洞」と呼ばれる病変ができることがあります。

空洞を伴うタイプは、病気が進行しやすく、治療をより積極的に検討する必要があります。

また、気管支拡張症を伴うタイプでは、気管支の中に痰がたまりやすくなり、そこにNTMが関係して病気が続くことがあります。

そのため、

「菌が見つかったかどうか」だけではなく、肺の中でどのような病変が起きているのか

を見ることが重要です。

「結核じゃなくてよかった」だけではありません

「結核ではありません。非結核性抗酸菌です」

と言われると、結核ではないことに安心される方が多いと思います。

確かに、肺MAC症などのNTM症は通常、人から人へ感染する病気ではありません。

しかし、だからといって「何もしなくていい病気」というわけではありません。

NTM症は、長い時間をかけて肺の状態が少しずつ変化していくことがあります。

特に、

  • 咳や痰が続いている
  • 胸部画像の陰影が徐々に増えている
  • 気管支拡張が進んでいる
  • 空洞がある
  • 喀痰から繰り返し菌が検出される

といった場合には、注意して経過をみる必要があります。

一方で、すべての患者さんが治療を必要とするわけではありません。

「治療するのか、経過を見るのか」を、その時点での病気の状態に合わせて判断することが重要です。

結核の治療歴がある方は特に注意が必要です

以前に結核の治療を受けたことがある方で、再び胸部画像に異常が出たり、咳や痰が続いたりすると、

「結核が再発したのでは?」

と心配になると思います。

もちろん、過去に結核を治療した方では、結核の再発・再燃を考える必要があります。

しかし、結核治療歴がある方に再び抗酸菌が検出された場合、必ずしも結核の再発とは限りません。

NTMが検出され、肺MAC症などの非結核性抗酸菌症である可能性もあります。

そのため、

結核菌なのか、NTMなのか

を改めて確認することが重要です。

特に、過去の結核治療の内容がよく分からない方や、治療から長い年月が経っている方では、昔の治療歴も含めて現在の状態を評価する必要があります。

非結核性抗酸菌症は、長く付き合う病気になることがあります

肺NTM症は、短期間の抗菌薬治療だけで終わる病気とは限りません。

病気の進行がゆっくりな場合には、治療をせずに定期的な検査で経過を確認することもあります。

治療を開始した場合には、薬を長期間服用しながら、症状や胸部画像、喀痰検査などを確認していきます。

そのため、肺NTM症では、

「診断されたらすぐ治療」
でも、
「結核ではないから放っておけばいい」
でもありません。

その方の病気のタイプと進行度を確認しながら、治療の必要性とタイミングを考えることが大切です。

長引く咳や痰がある方はご相談ください

咳や痰が長く続いている場合、その原因は肺NTM症だけではありません。

喘息、慢性副鼻腔炎、胃食道逆流症、肺炎、肺がん、結核など、さまざまな病気が考えられます。

特に、

  • 咳や痰がなかなか治らない
  • 健診で胸部X線の異常を指摘された
  • 肺に結節や影があると言われた
  • 抗酸菌が検出された
  • 「肺MAC症の疑い」と言われた
  • 過去に結核の治療を受けたことがある

という場合には、一度きちんと原因を確認することをおすすめします。

当院では、長引く咳や痰、胸部画像の異常などについて、呼吸器内科として診療しています。

結核なのか、非結核性抗酸菌症なのか、それ以外の病気なのかを確認し、必要な検査や専門医療機関への紹介を行います。

結核についてはこちら

結核は結核菌によって起こる感染症で、NTM症とは原因菌も感染の仕方も異なります。

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外部リンク:成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解