令和4年度 ぜん息講演会にて講演いたしました – 梅が丘内科とアレルギーのクリニック

令和4年度 ぜん息講演会にて講演いたしました

令和5年3月13日(月曜日)名古屋市高齢者就業支援センターにて「ぜん息って何?-治療から自己管理まで-」を当クリニック芝﨑正崇院長が講演をいたしました。名古屋市の市内在住・在勤(在学)の多くの方にご参加いただきました。皆様ご清聴ありがとうございます。ご興味のある方は、ご一読ください。何かのご参考になれば幸いです。講演会詳細のご案内はこちらをクリック。 

ぜん息って何?-治療から自己管理まで-

1:そもそも喘息とは、喘息の歴史

喘息とは何、そもそも何という質問ですが、端的に言うと私にもわかりません。呼吸器内科を25年やっていますが、やればやるほどわからなくなるのが喘息です。ただ、この講演会でそれをいったらおしめえよというやつですので、私のわかる範囲で説明をしています。喘息の喘というのはあえぐ、激しく呼吸するという意味です。古代ギリシャ 「激しい息」 ἆσθμαが(英語”Asthma“)の語源といわれております。喘息というのは、昔からある病気で人類の歴史と共にずっとあった病気です。古代エジプトの紀元前1550年頃の医学パピルスの中に喘息治療の記述が出て参ります。当時、薬はありませんでしたので、いろいろな食べ物を組み合わたり、お香を調合するなどして、それらを飲んだり、吸引したりするという治療だったようです。古代ギリシア語であ えぐという呼吸困難を意味する喘息とい う言葉が初めて使用されたのは,紀元前 8 世紀 末の古代ギリシアに存在した盲目の吟遊詩人ホ メロスが述した『イリアス(Ilias)』とされます。それから古代ギリシャ、ギリシャ語で激しい息という意味のアズマという言葉が古代ギリシャ文献に出て参ります。これが意味することは、一般市民の中に喘息という概念があったということです。

紀元前450年には医学の祖と言われるヒポクラテスが、いままでは喘息は神の呪いであるというとか、呪術的なものが多かったのですがわけですが、著書の中に、喘息は、「仕立て屋」、「漁師」、「金細工師」に多く、気候とも関係している、遺伝的要因があると科学的な記述が残っています。

東洋においては漢方の基礎である黄帝内経(こうていだいけい)という本の素問(そもん)というところに記載がございます。我が国においては、西暦930年頃、日本最古の漢和辞典、和名類聚抄(わみょうるいじしょう)に喘息の記載がございます。

2:喘息の定義の変遷

気管支喘息がなにかという定義は変遷しています。もともと気道、気道というのは、鼻からはいまでの空気のとおりみちで気管支ともいいますが、狭くなる病気ということはわかっておりました。しかし,1962 年に米国胸部疾患学会 (American Thoracic SocietyATS)は,喘息に は可逆性のある気道狭窄だけではなく、それに加えて気道過敏 性の亢進が存在することを明確にしたました。気道の狭窄とは、空気のとうりみちが狭くなるということです。気道の過敏性とはですが、そもそも咳がなぜでるかと考えたことはあるでしょうか?咳というのはからだの防御反応です。外界から異物がはいってくると咳で排除しようとするわけです。その異物を感知するセンサーがやたらと反応してしまう、いうならば気道の知覚過敏状態ですね、これが喘息にあるのではないかと。このあたりから喘息は気道の炎症、炎症とは、ケガをすると、その部分は充血して赤くなり、やや熱感を持ち、腫れて痛みを感じるようになります。このような症状は、体の傷ついた部分の組織がケガに反応したために起こるもので、これが炎症とよばれる状態です。喘息は気道に慢性的、ずっとということですね、に炎症をおこしている状態ではないかということがいわれるようになってきました。1970年代には気道の炎症ということを想定して、炎症をおさえる薬ではあるものの、全身に大量に長期間試用するには問題があったステロイド薬を吸入で試用、(ようするに全身にまわす必要がないため少量でいいため長期間)できるようになりましたがなかなか普及はしませんでした。1992年にだされたインターナショナルコンセンサスレポートには喘息は気道の慢性炎症性疾患と記載されており、1993年には我が国でも喘息治療予防ガイドラインが発行されて、喘息は気道の慢性炎症と明記され、喘息が気道の慢性の炎症という概念が一般化していきました。1995年には、GINAGlobal Initiative for Asthma Strategy)が、気道のリモデリング、気道、空気の通り道にずっと炎症を起こしていると、炎症というのは一般的にはもとにもどるわけですが、長い期間おこしていると、気道が変性してもとにもどらなくなるようになるということを記載しています。現在の気管支喘息の定義でございます。非常に専門用語が多く、あいまいなため、ひとつづつ見ていきたいと思います。気管支喘息は気道、空気の通り道のことですね、空気の通り道に、慢性、これはずっとということです、一時的でなく長期間、炎症、これはけがをしたときのように、組織が傷つき腫れるということですが、ずっと、空気の通り道が腫れているということです。それによって、変動性をもって、炎症とは腫れですから、腫れがひくこともあるわけです、そういうときは症状はでないので、よくなったりわるくなったりする、気道の狭窄症状による喘鳴、ゼーゼーいうことですね、呼吸困難や咳などが特徴である疾患ということです。気道ですが、正常の状態は粘膜にはれはありません。気道の慢性炎症というのは、気道の粘膜が常にはれている状態です。長年、喘息をわずらっている方でこの状態になれてしまうと、この時は症状を感じないかたも見えます。発作をおこすと、粘膜の外側の平滑筋が収縮し、粘膜の腫れもひどくなり、分泌物もふえるため、呼吸困難を感じます。発作止めを試用すると、取り急ぎ、平滑筋が広がり、呼吸困難は軽快しますが、気道の炎症の治療をしないと、炎症はそのままで、長期間炎症が続くと、リモデリングといい、気道が変性してしまいもとにもどらなくなります。我々、呼吸器内科専門医はこの状態になるのを防ぐために気道の炎症をおさえる治療を提案しています。気管喘息の概念図です。

喘息と気道炎症の画像

気道の炎症が本態でそれにより、気道が過敏になります。結果として、気道が狭くなり、知覚神経が容易に刺激されるようになります。結果、変動性を持った症状、炎症ですので、腫れがひくときもございます、よくなったり悪くなったりする、ヒューヒューいう喘鳴、呼吸困難、咳嗽などを引き起こします。これが長く続くと、気道が変性しリモデリングをひきおこします。こうなると元にはもどりません。変性するとさらに、気道が過敏になり症状も重篤化します。喘息の症状は水面の上の氷山に一角でございます。症状の下、目に見えない水面下には慢性の気道炎症がございます。症状をとるだけでは、すぐに炎症が増悪して、また水面に症状がでてまいります。水面下の炎症を治療することが大事でございます。

3:喘息の疫学

喘息と診断されて継続して治療をうけている方は本邦でだいたい100万~120万程度でございます。この数は大きなかわりはございません。これは、受療率でございます。医療機関にどの程度、患者様が受診しているかの数値でございます。これは減少傾向でございます。これは、薬剤がかなりよくなってきて、発作での予定外受診が減少したせいといわれています。つぎは有症率です。これは、過去12ヶ月以内に、ぜいぜい、ヒューヒューしたことがありますか?という問いにハイと答えた場合は、国際的に「喘息症状あり」=有症率に加えられるわけでございますおおむね、全人口の、8~10%程度の方は喘息をもっていると考えられ、おおよそ1000万程度の方が喘息症状が過去1年以内にあったというわけでございます。小児では男児がおおいわけですが、成人以降はほぼ同数、やや女性が多い傾向がございます。喘息死亡数でございます。1950年代には年1万以上あった死亡数ですが、あきらかに減ってきており、2019年では、1480人でした。これはのちに示す、吸入ステロイドを中心とした治療の進歩の結果と考えられます。ただし、先進国の中ではまだ我が国は喘息死亡が多いほうであるということもぎざいます。

4:喘息の診断

 

まず、おおきいところは喘息には診断基準がございません。例えば糖尿病では血糖値、高血圧症では血圧の値といった、わかりやすいゴールデンスタンダードはございません。ではどのように診断するかといいますと、喘息で典型的に認められる症状から予測し、他の疾患ではないということの証拠をかためて診断していくという作業となります。喘息らしい症状として、喘鳴、息切れ、咳、呼吸困難など複数の症状が、変動性をもって、よくなったりわるくなったりを繰り返して、あらわれるということです。肺炎や肺がんがドーンと肺のなかにあると完全によくなるおとはあまりありません。喘息の場合は炎症なので、あるていどひいてしまい症状がなくなることがあるということです。症状がでる時間帯も大事な情報です。喘息は夜間、特に早朝に増悪することが多いです。逆に言うと、めがさめて、体をおこしてから増悪するというケースは本当に喘息なのかという疑問が生じるわけでございます。喘息の場合は、症状が、感冒、運動、アレルゲン曝露、天候の変化、笑い、大気汚染、冷気、線香の臭い(強い臭気)などで誘発されることが多々みられます。最後に大事なのは胸部写真を撮影して、肺炎や肺結核、肺がんなどあきらかな異常がないことを確認することです。これをおこたると、大きな間違えをおかすことがあります。喘息発作の起こりやすい時間帯でございます。早朝が最も多く、一般の病院の診療時間はもっとも発作が少ないわけでございます。外来受診じに喘鳴がなくても喘息ではないといえない理由でございます。

5:喘息の検査

検査だけで、喘息と診断できるわけではございません。あくまでも状況証拠をつみかさねて診断に近づく手段でございます。今回は、スパイロメトリー、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)、ピークフロー、アズマコントロールテスト(アクトといわれる問診表)について説明いたします。スパイロメトリーでございますが、最も基本的な呼吸機能検査でございます。評価項目として、努力性肺活量、これは、最後まで息をはききると何リットルはききれるか、単位はリットルでございます。次が一秒量、最初の一秒に何リットルはけるかでございます。努力性肺活量は、たとえば体力や気合でもかせぐことができないわけではありません。一秒量となると純粋に肺だけのちからということができるわけです。この一秒量を努力性肺活量で割ったものが一秒率です。また、身長、年齢から、一秒量の基準値が計算できます。実際の一秒量とこの基準値の割合も産出します。正常値は一秒率が70%以上、基準値にたいする割合が80%以上です。治療により、一秒量が12%以上かつ200ml以上改善すれば、気道狭窄に変動性がありと判断できます。これを気道可逆性があるといいます。これが70%以下ですと、気道の狭窄があると判断するということです。呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定です。気道の好酸球というアレルギーの細胞がひきおこす炎症の程度に相関します。非常に簡便かつ患者様に負担なく測定ができ、迅速に結果もでますし、再現性もすぐれていますが、息をはく速さや、測定する呼吸の程度など、条件を統一させる必要がございます。37以上はあきらかな陽性と判断します。治療により、病状が改善しますと数値が低下いたします。逆に数値があがると、喘息が増悪しているか治療をさぼっているということがございます。数値が25をこえるものは慎重な判断が必要でございます。

喘息と検査 呼気中一酸化窒素

ピークフローメータでございます。スパイロメトリーの簡易版で患者様自身で測定できるものでございます。非常に簡易で一日に何回でも測定できるため、一日での変動を知ることができます。患者さん自身が簡単に測定できるため、喘息の悪化が数値でわかります。一般的には、朝おきたときと夜寝るまに測定いただくことが多く、その差で日内変動率をもとめます。予測値の80%以上、もしくは変動率が20%未満が正常と判断されます。逆で、予測値の80%未満、もしくは日内変動が20%以上の場合は喘息が増悪していると判断されます。アズマコントロールテスト、いわゆる質問票でactといわれています。症状(3項目)、発作治療薬使用(1項目)、総合的評価(1項目)から構成される喘息質問票である。合計が25点で十分なコントロール、2024点でコントロール良好、19点以下でコントロール不良と判断されます。実際に診療をやっていて気づく点は、総合評価が4点で24点という方に、なぜ、1点減点ですかと尋ねると、完全というのは気がひけるからという方が以外と多いということです。たいていのかたはわずかだが症状があるから満点とは言えないということが多いですが、なかには完全というのは気がひけるというだけという方もみえました。

6:喘息の診断

まずは典型的症状である、発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳(夜間、早朝に出現しやすい)の反復があるか、つぎに、可能ならば、スパイロメトリーやピークフローを用いて、変動性・可逆性の気流制限があるかで証拠をとっていきます。気道過敏性も検査で調べることもできますが、有害物質を吸入して反応するかをみるわけですから、危険をともないます。なかなか一般の診療所では難しい検査であり、一般的には問診から類推します。気道炎症にかんしては好酸球というアレルギー性の炎症は呼気一酸化窒素濃度測定で調べることが可能です。気道に好酸球性炎症があれば診断的価値は高いです。アトピー素因があれば喘息の傍証になりえます。一番大事なのは喘息以外の疾患を除外することです。ただし、検査については、一般の内科では難しいこともあります。そういう場合は、喘息を症状から疑う場合は、まず、胸部写真をみて、他の命にかかわる、肺がんや肺炎、肺結核ではないことを確認したうえで喘息の治療、このばあいは炎症をおさえる吸入ステロイドと、気管支拡張作用がある、長時間作用型のβ刺激薬の合材、あわさってい一つになった薬を試用しますが、を開始して、その反応性をみて診断をしていくということは、診断に極めて有用です。あきらかな喘鳴がなく、反応も微妙な場合は、薬をやめたら、たいていは受診せずに自動的にやめて悪化して再診するわけですが、悪化する、再度治療したら改善すれば治療の再現性ありと判断され喘息ということがよりつよくいえるわけでございます。

7:喘息とコロナの関係

喘息患者は新型コロナに罹患しやすいかということでございますが、世界各地の新型コロナと診断された方の中にどれくらいの喘息の方がいたかという割合でございます。コロナと診断された方のなかで、喘息をもっている方の割合は、その地域の一般の喘息罹患率よりも低いものがほとんどでした。これをみると喘息をもっているとコロナにかかりにくいのではとも思えてしまいます。少なくとも、喘息をもっているからといって、コロナにかかりやすいということはないということはいうことができます。喘息の方がなぜ、新型コロナにかかりにくいというと、喘息患者では、ACE2受容体発現が低下しているということがあげれられます。新型コロナウィルスはこの細胞の膜の上にある、ACE2受容体にひっついて、細胞内にその遺伝子を注入します。その入り口であるACE2受容体の発現が喘息患者様には低下しているわけでございますので、コロナウィルスがはいってくる入り口が狭くなっている可能性がございます。新型コロナにかかると喘息は悪化するかとういことでございますが、いくつかの研究結果がございます。喘息患者は、コロナに感染したときに、入院30日後の人工呼吸器使用率や集中治療室利用率が高くなるというスタディーがございますが、喘息患者だから致死率があがるというデータはございません。16才以上の重症喘息患者では致死率が上昇することがわかっております。経口ステロイド連用例、これは吸入ステロイドだけでは管理できないわけでありますので、重症喘息といえますが、そういった症例では死亡リスクが高いというデータがございます。喘息だからといって致死率があがるわけではございませんが、重症喘息の場合に限れば、重症化や死亡リスクがあがるといえます。

8:喘息の治療

喘息は大昔からあった疾患でございますいので、昔から、吐かせる薬、下剤とか浣腸、鼻への刺激など、様々な薬を使ってみたと。この他、世界各地で薬草、特にアルカロイド、今で言うと抗コリン剤。そういうものが治療に使われた形跡があります。大麻も19世紀辺りまで喘息患者に広く使われたそうですが、発作を起こしたときに使用すると具合が悪くなるということが言われておりました。紀元前からは、中国で治療に麻黄という薬草が使われておりました。これエフェドリンという成分で、今でも咳止めや市販薬にかなり入っている、そういう成分です。ただ19世紀末になって交感神経β受容体刺激剤アドレナリンというのが登場しました。これは非常に重要な薬で、気管支を広げたり、血圧が下がった人の血圧を上げたりと大変役に立つ薬です。それから1920年代になって、テオフィリン(お茶の葉っぱに含まれるアルカロイド)の濃度を高くして使うと喘息が良くなるということが知られるようになりました。さらに、1950年代になりまして、副腎皮質ステロイドホルモン、コーチゾンというのが喘息に注射すると有効であるということが分かって、その後喘息の基本病態は気道の慢性炎症、アレルギーによる炎症であるということが分かり1970年代には気道炎症を抑える吸入ステロイド剤が発売されました。これで現在使われている喘息の薬の主な役者が揃ったということになります。

喘息治療の進歩でございます。ひとつづつゆっくりとみていきたいと思います。喘息の原因が気道炎症とはっきりするまでは、発作治療が中心でございました。長期間にわたって喘息病態の中心は気 道収縮反応であると考えられてきたため、喘息治療の中心は気管支拡張薬でございました。その 後,気道の慢性炎症が喘息病態の根幹にあり, その炎症によって気道の過敏性および収縮反応 が誘導されることが証明されました。現在の喘息治療の第一選択薬剤である吸入ステロイドが1970年代には開発されましたが、なかなか普及しませんでした。我が国では1993年に喘息の管理予防ガイドラインが出版され、そこに喘息は慢性気道炎症であり、吸入ステロイド薬が第一選択であると明記され、一般に急速に普及いたしました。2000年には、気道のアレルギー性炎症をひきおこす化学伝達物質で、気道攣縮作用あるロイコトリエンを抑えるロイコトリエン受容体拮抗薬が発売されました。2007年には炎症を沈める吸入ステロイド薬と気管支をひろげる、かつ長時間効果が持続する、長時間作用型β刺激薬を混ぜた薬剤が初剤されました。この配合剤は吸入ステロイド単独にくわせて、早く症状を改善するとされ、結果として患者様の治療継続につながっているといわれております。2009年には生物学製剤、化学的に合成した薬ではなく生体が作る抗体(たんぱく質)を人工的につくり、薬物として使用した新しいタイプの薬ですが、IgEに対する抗体である、オマリズマブ(ぞレア)が発売されました。2015年には、吸入治療いよってもコントロールが困難な重症喘息に対して、喘息の気管支収縮の要因とされる肥厚した気道平滑筋の量を熱を加えることにより、減少させて気道の反応性を抑制し、喘息症状を緩和する、半分外科的な治療である気管支サーモプラスティーが保険適応されました。同年、長時間作用型β作用型交感神経刺激薬とは別の機序の気管支拡張薬である長時間作用性抗コリン薬が成人喘息にたいして適応を取得いたしました。これは吸入剤であり、現在では、吸入ステロイドと長時間作用型β刺激薬、長時間作用型抗コリン薬の2剤もしくは3剤の配合剤も使用可能です。のちほど、ご説明いたしますが、2016年以降、生物学的製剤がつぎつぎと開発発売されております。

9:喘息の長期管理

健康な人とまったく同じ日常生活、これは運動を含めます、をおくることでございます。そのためには、気道の炎症の増悪因子をさけ、薬物治療にて気道の炎症を完全におさえこむことが大事でございます。その結果として、呼吸機能の低下を抑制し、喘息死をさけることができ、結果として発作が減り、治療薬の副作用を避けることができます。喘息治療薬には大きく、長期管理薬と発作治療薬にわけることができます。スライド読む。短時間作用型ということで、すぐに効果がでるという気管支拡張剤でございます。発作治療薬、短時間作用型のβ刺激薬の作用機序でございますが、おもに、粘膜の外側にある平滑筋に作用して、それを速やかに弛緩させ、気道を広げます。ただし、気道の炎症には効果は乏しいため、喘息の本態である炎症はそのままです。長期管理薬ですが、少量で気道の炎症にたいして効果のある吸入ステロイドが軸となります。喘息の治療で最も大事なステロイド薬についてですが、全身ステロイドは投与量が全身にいきわたらなければいけないため増えてしまいます。ゆえに、長い期間はしようできません。それに対して、吸入ステロイドは気道にだけ効果があればいいわけですので、全身投与のステロイドに比べて少量でいいというのが利点です。同じ薬剤ではございませんので単純比較はできませんが、吸入ステロイド薬の単位はマイクログラム、全身投与の注射や内服のステロイドの単位はミリグラムです。1ミリグラムは1000マイクログラムでございます。単純比較はできませんが、吸入ステロイドは少量でいいということがわかるかと思います。吸入ステロイド薬の作用機序でございます。炎症をおこして過敏になっている気道に吸入ステロイドが作用すると炎症を抑え、腫れをとり気道をひろげ、炎症が静まり、刺激があっても発作がおこらなくなります。日本の喘息死亡数と吸入ステロイドの販売額との関係でございます。1990年代から吸入ステロイドの販売がふえるに呼応して、急速に喘息死がへっております。吸入ステロイド薬は喘息死亡を減らすエビデンスのある唯一の薬剤でございます。縦軸は喘息による死亡率です。横軸は一年に何本吸入ステロイドを使用したかでございます。一番右の12は、年に12本使用した、月に1本ですから毎日使用したということになります。吸入ステロイド薬が年間1本増えるごとに死亡率は約21%低下します。このように非常に有用な吸入ステロイド薬ですが問題は継続率です。ICS単剤および配合剤の使用継続率をしめします。1年たつとおおよそ10%以下となってしまいます。配合剤のほうが若干継続率が高いわけですが、症状を軽快する気管支拡張薬が配合されているため、患者様が効果を感じることができるためともいわれております。医師と患者が、喘息治療に用いる吸入薬に期待する特性でございます。患者様はあたりまえですが、すぐに楽になりたい、効果の速さを期待するのに対して、医師は効果の速さも大事ですが、効果が長く持続して、炎症をおさめて、増悪をおさえることも期待しているわけでございます。喘息症状は水面にみえる、氷山の一角でございます。治療に関しては、水面にみえる、症状を抑えるだけでなく、水面下にある、原因である炎症を治療することが大切でございます。

10:喘息管理の評価

喘息のコントロール良好とは症状、増悪がまったくない状態をいいます。症状はまったくなく、増悪もまったくないため増悪治療薬は使用しません。まったくの無症状のため、運動を含む活動制限はまったくございません。呼吸機能やピークフローも安定、増悪自体がないわけでございますから、増悪のための予定外受診も全くない状態、これらがすべて達成されて喘息コントロールが良好と判断されます。

11:重症喘息と生物学的療法

日本における喘息重症度の内訳でございます。成人では10%程度が重症持続型とされています。なぜ、重症喘息かといいますと、成人喘息の喘息死前の喘息重症度でございます。喘息死されたかたの4割弱が重症であったわけでございます。重症喘息にたいして、治療の選択肢がひろがったいます。さきほど少しふれました、生物学的製剤が使用できます。対象は高用量吸入ステロイド薬を含む複数の治療をおこなってもコントロールできず、経口ステロイド薬の使用が必要となる重症喘息の方です。オマリズマブですが、IgEという、体内の免疫細胞どうしが連絡しあうのに必要なたんぱく質に対する抗体です。抗体というのは人体でも自然につくられている、ある物質にひっついてその働きを阻害するタンパク質です。自己注射が可能です。自己注射が可能ですと、たとえば2週間おきの投与の場合、月に1回の受診で、あとの1回は自分で注射すればいいということになり、通院の手間がはぶけます。喘息以外には蕁麻疹や花粉症にも使用することができます。ただし自己注射は喘息とじんましんだけ、花粉症にはダメとなっています。メポリズマブはIL-5という化学伝達物質に対する抗体です。自己注射可能です。ベンリラリズマブはIL-5がひっつく受容体にたいする抗体です。これは自己注射ができません。ただし、1~2か月に1回の投与のため、病院にいったときに投与でもいいのかもしれません。ディピルマブはIL-4のレセプターに対する抗体です。自己注射ができ、アトピー性皮膚炎や、アレルギー性鼻炎にも適応がございます。テゼペルマブはいわゆるアレルギー炎症である、II型炎症以外にも効果のある薬剤です。自然免疫系のTSLPに対する抗体です。

喘息の気道炎症の基本メカニズムです。左が、Th2というリンパ球をかいするII型アレルギー反応です。アレルゲンが侵入すると、樹状細胞という細胞がそれを貪食(とりこんで、消化)して、その情報をTリンパ球にわかるようにしますします。そうするとTリンパ球が、IL-4IL-5といった化学物質をつかい、他の細胞をうごかすわけです。また、Tリンパ球はBリンパ球を活性化してIgE抗体をつくらせます。それらをおさえるのが生物学的製剤です。古典的に型アレルギーにたいして、自然リンパ球をかいするあらたなアレルギー反応がわかってまいりました。こちらの化学物質に作用する生物学的製剤もございます。

難治例への対応のためのフローチャー卜でございます。まずはTh2リンパ球を介する、型炎症が主体かどうかをみて、型炎症が主体の場合は生物学的製剤を考慮するというこtになります。非常に高額な薬剤ですので、患者様の社会経済的背景などから総合的に判断して選択するとなっております。また他のアレルギー疾患にも効用があり、それは異なるため主治医の先生と相談してどの薬剤を使用するのか決めることになります。

12:喘息の自己管理

喘息を悪くする原因をさけることが第一でございます。タバコは絶対にやめていただきます。と口でいうのは簡単ですが、禁煙は、禁煙は簡単だ、なぜなら私は何度も禁煙に成功しているというジョークがあるくらい難しいものでございます。禁煙外来でよくいうのは、一度、失敗してもどうして禁煙を始めようと思ったかを思い出し、再チャレンジしてほしいということです。次にダニです。ダニはゼロにすることはできません。すくなくとも布団まわりだけでも対処するとダニが原因の場合は、喘息としてはかなり改善します。毛のあるペットは基本は喘息にはあまりいいとはいえません。どうしても飼う場合もしくはすでに飼ってしまっている場合はせめて夜寝るときだけは場所をかえましょう。大気汚染物質に気を付け、風を予防しましょう。次に、服薬をきちんとすることです。吸入を守れない理由です。スライドよみあげる。服薬のうっかり忘れを予防するために、同じ時間、同じ場所で吸入する、いわば生活のるルチーンワークにとりいれることがおすすめです。歯磨きの場合は歯磨きの前に吸入することがおすすめです。歯磨きはみな、かならず一日に2回おこないます。その前におこなうことで、ルチーンワークにくみいれることでやり忘れがなくなり、さらに、そのあとに歯を磨いてうがいをするわけでるから副作用対策にもなります。食事の前におこなうのも同様です。次に、自己の状態をしり、治療にいかすということでピークフローメーターを利用した方法です。スライド読む。

13:どういうときに呼吸器専門医へ受診すべきか

呼吸器専門医は気道の炎症をおさえ、リモデリングを予防したいと考えています。咳嗽もすぐになおってしまえばおそらくは感冒でいいのでしょうが、2週間以上続くような場合、もしくは、1週間程度で治る場合でも、たとえば毎月のように風をひいて、そのたびに1週間咳嗽が続く場合は、年で12週間、3ヵ月ですね、1/4は咳をしていることになります。そのような場合はやはり、普通ではないので呼吸器の専門受診をおすすめします。スパイロメトリーや呼気一酸化窒素濃度測定など、一般の内科では難しい場合もございますので、そういった場合は呼吸器専門の受診を検討されてはどうかと思います。