【コラム】喘息の治療はいつまで続けるべきか?

「喘息の治療はいつまで続ければいいですか?」——診察室で非常によくいただくご質問です。端的に言えば「基本的には中断しません」が、本コラムでは患者さんが安心して日常を送るために、焦らず安全に治療を続ける考え方を詳しく解説します。


喘息は「治る病気」ではない、でもコントロールはできる

まず大前提として、喘息は“完全に治る”病気ではありません。しかし、きちんと治療してコントロールすれば、運動制限もなく、健康な人と同じ生活を送ることができます。実際、オリンピックで活躍する選手の中にも、喘息を持ちながら競技を続けている方が多数います。つまり、適切に治療すれば日常生活やスポーツに制限はありません

治療は3か月以上~年単位で考える

喘息治療は「数週間で終わる」ものではなく、少なくとも3か月以上~年単位で見通す必要があります。吸入ステロイド(ICS)を続けることで発作がほとんど出なくなる方も多く、薬を減らせることがあります。中には、完全に中止できる方もいます。

ただし、大切なのは“焦らない”こと。臨床現場の感覚として、「早く減らしたい」と考えていた患者さんが、「もう減らせないかも」と一旦あきらめた頃に、安全に減量できるケースを多く経験します。減量の可否や時期は主治医と相談しながら慎重に進めましょう。

吸入ステロイド(ICS)が唯一「死亡を減らす」薬

重要なのは、無理に薬をやめる必要はないという点です。カナダの大規模研究(Samy Suissa, New England Journal of Medicine 2000;343:332–336)では、年間3本以上の吸入ステロイドを使っている患者さんは、まったく使っていない人に比べて喘息による死亡率が約70%低いことが示されています。また、1本増えるごとに死亡率が約21%低下するという結果もあります。特に、月1本ペース(年間12本)で吸入している方は死亡リスクが大幅に下がることがわかっています。

吸入ステロイドの年間使用本数と喘息による死亡リスクの関係を示すグラフ
年間に使用する吸入ステロイドの本数が多いほど、喘息による死亡リスクは低下することが示されています(Suissa S, N Engl J Med 2000)。

吸入ステロイドは局所投与であり、低用量であれば全身への影響はきわめて少ないのが特徴です。したがって、「あえてやめる理由がない」ケースが多いといえます。

それでも“やめたい気持ち”はよくわかります

長く治療を続けると、発作が出ず「もう治ったのでは?」と感じる方がいます。実際、長期間しっかり治療を継続することで炎症が十分に落ち着き、薬を大幅に減量したり、中止できる方もいます。ただし、安全にやめられるかは事前に断定できません。重要なのは、焦らず、主治医と相談しながら段階的に減量していくことです。

当院の治療方針:低用量での安定コントロールを重視

当院では、喘息の治療において「必要な人にはしっかり使うが、可能な限り低用量でコントロールする」方針を大切にしています。吸入ステロイドの有効性は確立されていますが、高用量を長期にわたり継続する場合、副作用が完全にゼロとは言い切れません。

  • 薬を減らすチャンスがあれば減らす
  • 必要なら適切な量を続ける

このバランスを重視し、患者さん一人ひとりの生活や症状に合わせて治療計画を立てます。

GINA 2024について(別コラム予告)

今回のコラムでは一般的な喘息治療の基本を解説しました。GINA 2024(国際的な喘息ガイドライン)では、「本当の軽症喘息では毎日の治療が不要なケースがある」という重要トピックが示されています。こちらは別コラムで詳しく解説し、内部リンクでご案内する予定です。

まとめ

  • 喘息は「完全に治る」病気ではないが、コントロールすれば普通の生活が可能
  • 治療は週単位ではなく、少なくとも3か月以上~年単位で考える
  • 吸入ステロイド(ICS)は喘息による死亡リスクを大幅に低減するエビデンスがある
  • 高用量を長期で使い続けると副作用リスクはゼロではないため、低用量での安定コントロールを重視
  • 治療のゴールは「薬をやめること」ではなく、「健康で安心して生活すること」

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