【コラム】インフルエンザワクチンはいつ打つ?2026年は早めの接種がおすすめな理由

インフルエンザワクチンは「いつ打つ」のがいいのか?

今年は9月から流行

先日、メ~テレのニュース番組で、今年のインフルエンザの流行とワクチンについてお話ししました。

メ~テレ「インフル感染拡大中 名古屋市内のクリニックに多くの予防接種の人たち でも効果はいつまで?」

今年は、例年とは少し違います。

日本では、インフルエンザは例年12月頃から本格的に流行し、1~2月頃にピークを迎えることが多いのですが、今年は8月末から患者が増え始め、9月には全国的に流行が拡大しています。

厚生労働省も2026年9月18日時点の発生状況を公表しています。

愛知県でも9月3日に流行入りが発表され、過去10年で最も早い流行入りとなりました。

当院でも、例年は10月1日から接種を開始していましたが、今年は前倒しして9月18日からインフルエンザワクチンの接種を開始しました。

そこで、患者さんからよく聞かれるのが、

「9月に打ったら、冬の後半には効果がなくなるのでは?」

という質問です。

これは、非常にもっともな疑問です。

インフルエンザワクチンは、接種すれば1年間ずっと同じ強さで効くわけではありません。一方で、今年のように9月から流行している場合には、「冬まで待つ」という選択にも考えるべき点があります。

今回は、「インフルエンザワクチンはいつ打つのがよいのか」について、できるだけ分かりやすく説明します。


インフルエンザワクチンは「感染」を完全に防ぐワクチンではありません

まず知っておいていただきたいことがあります。

現在のインフルエンザワクチンは、ウイルスが体内に入ることを完全に防ぐワクチンではありません。

そのため、

「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった」

ということは起こります。

しかし、それは「ワクチンが効かなかった」という意味ではありません。

インフルエンザワクチンには、

  • インフルエンザの発病を減らす
  • 発病した場合の重症化を抑える
  • 肺炎などの合併症を減らす
  • 入院や死亡につながるリスクを減らす

といった効果が期待されています。

厚生労働省も、現在のワクチンは感染そのものを完全に阻止するものではない一方、発病予防に加えて、発病後の重症化や死亡を防ぐ効果があるとしています。

つまり、

「絶対にインフルエンザにかからないようにするワクチン」

ではなく、

「インフルエンザにかかる可能性を下げ、かかった場合にも重症になりにくくするワクチン」

と考えるのが適切です。


インフルエンザが怖いのは、ウイルスだけではありません

インフルエンザの重症化を考えるうえで、非常に興味深い歴史的研究があります。

1918年に世界的に流行した、いわゆる「スペイン風邪」です。

当時は現在のような抗菌薬がありませんでした。

2008年、Morens、Taubenberger、Fauciらは、1918~1919年のインフルエンザ死亡例について、58例の肺組織を再検討しました。

さらに、15か国で行われた109の剖検シリーズ、合計8,398例の病理学的・細菌学的データをレビューしています。

その結果、1918~1919年のインフルエンザによる死亡の多くは、インフルエンザウイルスによって傷害された呼吸器に細菌が二次感染し、細菌性肺炎を起こしたことによるものと考えられました。

イメージすると、

インフルエンザ
↓
気道・肺が傷つく
↓
細菌が二次感染する
↓
肺炎
↓
重症化

という流れです。

もちろん、1918年と現在では医療環境がまったく違います。現在は抗菌薬もあり、診断や治療方法も大きく進歩しています。

ただ、この歴史的研究は、

「インフルエンザの怖さは、ウイルス感染そのものだけではなく、その後に起こる肺炎などの合併症にもある」

ということを教えてくれます。

実際、厚生労働省も、高齢者や基礎疾患のある方では、インフルエンザをきっかけに肺炎などの重い合併症を起こすことがあるとしています。


特に65歳以上の方には、インフルエンザワクチンをおすすめします

若くて健康な人であれば、インフルエンザにかかっても自然に回復することが多いでしょう。

しかし、高齢者ではそうとは限りません。

インフルエンザをきっかけに、

  • 肺炎
  • COPDなど呼吸器疾患の悪化
  • 心不全など基礎疾患の悪化
  • 入院
  • 死亡

につながることがあります。

また、子どもでは、まれではありますが脳症などの重い合併症が起こることもあります。

特に65歳以上の方や、肺疾患、心疾患、糖尿病、腎疾患などの基礎疾患がある方は、インフルエンザを「単なる高熱の出る風邪」と考えない方がよいでしょう。

厚生労働省も、基礎疾患のある方や高齢者では重症化する可能性が高く、ワクチンには重症化予防の効果が期待できるとしています。


約26万人の高齢者を調べたスウェーデンの研究

インフルエンザワクチンの重要性を考えるうえで、スウェーデンで行われた大規模な研究があります。

ストックホルム県(Stockholm County)の65歳以上259,627人を対象にした研究で、そのうち100,242人がインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、またはその両方を接種しました。

ワクチン接種群では、非接種群と比較して、

  • インフルエンザによる入院:46%少ない
  • 肺炎による入院:29%少ない
  • 肺炎球菌性肺炎による入院:36%少ない
  • 侵襲性肺炎球菌感染症による入院:52%少ない
  • 総死亡:57%少ない

という結果が報告されています。

ただし、ここは重要です。

この研究は、インフルエンザワクチン単独の効果を調べた研究ではありません。

実際、ワクチン接種者のうち76,177人は両方のワクチンを接種し、23,224人がインフルエンザワクチンのみ、841人が肺炎球菌ワクチンのみでした。

したがって、57%という総死亡減少率を、

「インフルエンザワクチンだけで死亡が57%減った」

と解釈することはできません。

また、この研究は1998~1999年のスウェーデンで行われた観察研究です。

それでも、約26万人という大きな高齢者集団において、インフルエンザ・肺炎対策としてワクチン接種が大きな健康上の利益と関連していたことは注目すべき点です。


若い人には必要ない?

では、若い人はどうでしょうか。

一般に、高齢者に比べれば、若く健康な人がインフルエンザで重症化する割合は低くなります。

しかし、「若い人は重症化しない」ということではありません。

また、「死なないから問題ない」というわけではありません。

インフルエンザをきっかけに喘息が悪化したり、咳が長く続いたりすることがあります。高熱や全身倦怠感だけでなく、咳や体調不良が長引けば、学校や仕事を休まざるを得なくなったり、日常生活に大きな支障が出たりすることもあります。

つまり、若く健康な方にとっても、インフルエンザワクチンは「死亡を防ぐためだけ」のものではありません。感染した場合の生活への影響まで考えて、接種するかどうかを判断することも大切です。

また、若い人や子どもにとってワクチンには、重症化予防だけではなく、そもそもインフルエンザを発病するリスクを下げるという意味があります。

厚生労働省が紹介している国内研究では、2015/16シーズンに6歳未満の小児を対象として調べたところ、インフルエンザの発病予防に対するワクチン有効率は**60%**と報告されています。

ここでいう「有効率60%」とは、

ワクチンを打った人の60%がインフルエンザにかからなかった

という意味ではありません。

ワクチンを接種しなかった人と比較して、インフルエンザを発病するリスクが相対的に60%低下したという意味です。

例えば、

  • ワクチンを接種しなかった100人のうち30人が発病
  • ワクチンを接種した200人のうち24人が発病

だった場合、発病率はそれぞれ30%と12%です。

したがって、

(30-12)÷30=60%

となります。

このように、若い人や子どもにとっても、ワクチンには「インフルエンザにかかること自体を減らす」という意味があります。

厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」


今年のインフルエンザ――A(H1N1)pdm09とH3N2サブクレードK

今年のインフルエンザを考えるとき、流行しているウイルスの種類も重要です。

インフルエンザA型には、

A(H1N1)pdm09

と

A(H3N2)

という代表的なタイプがあります。

A(H1N1)pdm09は、2009年に世界的な流行を起こした新型インフルエンザに由来するウイルスで、現在では季節性インフルエンザの一つとして流行しています。

2026/27シーズンの日本のインフルエンザワクチンには、A(H1N1)pdm09についてA/Switzerland/6849/2025が選定されています。

また、今年注目されているのが、A(H3N2)のサブクレードKです。

「サブクレード」というのは、同じウイルスの中で遺伝子的な変化を積み重ね、枝分かれしたグループのことです。

2025/26シーズンには、H3N2のサブクレードKが北半球で広がりました。

そして2026/27シーズンの日本のワクチンでは、A(H3N2)についてA/Michigan/105/2025が選定されています。厚生労働省の資料によると、この株はサブクレードKに属します。

では、

「流行しているウイルスとワクチンのウイルスが違うから、ワクチンは効かないのでは?」

と思われるかもしれません。

これも単純な話ではありません。

2026年に発表された研究では、2025/26シーズンのワクチン接種前後の成人の血清を調べたところ、サブクレードKに対する抗体もワクチン接種後に上昇しました。サブクレードKに対する抗体価は約2倍に上昇しており、研究者らはワクチン株とサブクレードKとの抗原性の違いは限定的だったとしています。

別の2026年の研究でも、2025/26シーズンのワクチンがサブクレードKを認識する抗体を誘導しており、一定の発病予防効果が期待できると報告されています。

したがって、

「ウィルスの型がはずれたからワクチンは完全に無意味」

と考える必要はありません。

ただし、ワクチンと流行株の抗原性が完全に一致しているわけではないため、「ワクチンを打てば感染しない」と考えるのも間違いです。


では、今年は「今」打つのか、それとも待つのか?

ここが、今年一番難しいところです。

インフルエンザワクチンは、接種した直後から最大の効果が出るわけではありません。

免疫が形成されるまでには、おおむね2週間程度かかります。

一方、その後も免疫の効果がずっと同じ強さで続くわけではありません。

厚生労働省は、従来から、インフルエンザワクチンの効果が期待できる期間を、接種後2週間程度から5か月程度と説明しています。

ただし、ここで「5か月たったら突然効果がなくなる」と考えてはいけません。

実際には、ワクチンの有効性は時間とともに徐々に低下していくと考えられています。

過去の複数研究をまとめたメタ解析では、接種後15~90日と91~180日を比較すると、H3N2ではワクチン有効性が平均33ポイント、B型では19ポイント低下していました。一方、H1N1では統計学的に明らかな低下は確認されませんでした。

つまり、

「9月に接種すると、2月には絶対に効かなくなる」

という話ではありません。

正確には、

「9月に接種した場合、2月には接種直後よりワクチンの有効性が低下している可能性がある」

ということです。


例年なら「少し待つ」という考え方もあります

例年であれば、

「12月~1月の流行ピークに合わせて、10月後半~11月頃に接種する」

という考え方には合理性があります。

できるだけ冬の後半まで免疫を保つことを考えるためです。

特に、毎年のように12月~3月に流行するのであれば、9月より10月後半~11月に接種した方が、冬の後半まで免疫を維持するという点では都合がよい場合があります。


では、今年は「早めの接種」を考えてよいのでしょうか?

しかし、今年は事情が違います。

すでに8月末から流行が始まり、9月には急速に感染が拡大しているからです。

厚生労働省によると、8月23日までの1週間で全国の定点医療機関あたりの患者報告数は1.11人となり、流行の目安である1人を超えました。これは前年より5週間早い流行入りでした。

さらに9月6日までの週には3.29人となり、前週の1.8倍以上、前年同時期の6倍以上となっています。

この状況であれば、

「冬に備えて、もう少し待つ」

という考え方だけではなく、

「現在すでに流行しているインフルエンザに備えて、今のうちに接種しておく」

という考え方も十分にあります。

もちろん、今接種すれば、その効果が5か月後まで同じ強さで続くわけではありません。

時間がたつにつれて、有効性は徐々に低下していきます。

しかし問題は、

「5か月後、つまり2027年2月頃に、インフルエンザがどの程度流行しているのか?」

ということです。

これは、今の時点では分かりません。


これだけ早く流行したインフルエンザは、この先どうなる?

もう一つ、今年の流行について患者さんからよく聞かれるのが、

「これだけ早く、しかも急速に広がったインフルエンザは、この先どうなるのですか?」

という質問です。

これは、現時点では誰にも正確には分かりません。

ただ、感染症の流行を考えるうえで重要なポイントがあります。

インフルエンザに感染すると、そのウイルスに対する免疫反応が生じます。

そのため、ある程度単純化して考えると、

感染者が増える
↓
そのウイルスに対する免疫を持つ人が増える
↓
同じ、または似たウイルスには感染しにくい人が増える
↓
その後の感染拡大が鈍化する

ということは考えられます。

つまり、今回のように9月から急速に感染者が増えたことが、今後の流行の勢いを弱める方向に働く可能性はあります。

ただし、

「これだけ流行したから、もうすぐ終わる」

と考えるのは危険です。

インフルエンザは、一度かかったら、そのシーズンは絶対にもうかからないという病気ではありません。

A(H1N1)pdm09とA(H3N2)のように異なるタイプがありますし、同じA型でもウイルスは少しずつ変化します。さらにB型インフルエンザもあります。

また、感染によってできた免疫も、すべてのインフルエンザウイルスに同じように働くわけではありません。

一方で、過去の感染やワクチンによってできた免疫が、似たウイルスに対してある程度反応する交差免疫もあります。

したがって、

「感染者が増えたことで免疫を持つ人が増え、その後の流行が鈍化する」

という可能性はありますが、

「9月に大流行したから、冬には流行しない」

とは言えません。

今後、どのウイルスが主流になるのか、ウイルスがどの程度変化するのか、B型インフルエンザがどの程度広がるのかなどによって、流行は変わってきます。


「感染して免疫をつける」のと「ワクチンで免疫をつける」のは違います

ここは非常に重要です。

「これだけ流行しているなら、もう感染して免疫をつけた方がいいのでは?」

と考える方がいるかもしれません。

しかし、これはおすすめできる考え方ではありません。

インフルエンザに感染すれば、結果として免疫ができることはあります。

しかし、その過程で、

高熱が出る
↓
肺炎になる
↓
基礎疾患が悪化する
↓
入院する

というリスクを負うことになります。

一方、ワクチンは、実際にインフルエンザに感染することなく、あらかじめ免疫を準備しておくための方法です。

特に65歳以上の方や基礎疾患のある方では、

「感染して免疫をつける」のではなく、「ワクチンであらかじめ免疫を準備する」

という考え方が重要です。


子どもなら「フルミスト」という選択肢もあります

子どものインフルエンザワクチンには、もう一つ選択肢があります。

それが**「フルミスト」**です。

フルミストは、注射ではなく、鼻にスプレーする経鼻弱毒生インフルエンザワクチンです。

日本では2歳以上19歳未満が対象で、左右の鼻に0.1mLずつ噴霧し、原則1回の接種で済みます。

注射が苦手な子どもにとっては、

「注射ではなく、鼻に噴霧するだけ」

というメリットがあります。


フルミストは「生ワクチン」ですが、過度に怖がる必要はありません

フルミストは、通常の注射のインフルエンザワクチンとは違い、弱毒化したインフルエンザウイルスを使った生ワクチンです。

そのため、

「生ワクチンだから、インフルエンザに感染するのでは?」

と心配される方もいます。

しかし、弱毒化されたワクチンウイルスを用いて免疫をつくるワクチンであり、通常のインフルエンザを起こすことを目的としたものではありません。

一方で、「何も副反応がない」という意味でもありません。

また、明らかな免疫機能異常がある方や、免疫抑制をきたす治療を受けている方、妊娠している方などは接種できません。

つまり、

「生ワクチンだから危険」でもなければ、「生ワクチンだから何も心配いらない」でもありません。

対象となる子どもについて、医師が適応を確認したうえで接種するワクチンです。


ただし、今年はフルミストの供給にも注意が必要です

今年フルミストを希望する方に、もう一つ知っておいていただきたいことがあります。

フルミストは、希望すればいつでも接種できるとは限りません。

医療機関によっては予約枠や在庫に限りがあります。

そのため、

「子どもにはフルミストを打とう」

と思っていても、希望した時点ですでに予約終了や在庫切れになっている可能性があります。

フルミストを希望される方は、早めに医療機関へ確認してください。


今年の結論――「いつ打つか」は、今年の流行を見て考える

インフルエンザワクチンについて、

「打ってもインフルエンザにかかる人がいるから意味がない」

という話を聞くことがあります。

しかし、これはワクチンに期待する効果を少し取り違えています。

インフルエンザワクチンは、感染を完全に防ぐワクチンではありません。

それでも、

発病を減らす。

重症化を減らす。

肺炎などの合併症を減らす。

入院や死亡につながるリスクを減らす。

という意味があります。

特に重要なのが、65歳以上の高齢者と基礎疾患のある方です。

今年は、例年よりかなり早くインフルエンザの流行が始まっています。

ワクチンの免疫は接種後すぐに完成するわけではなく、また時間とともに徐々に低下していきます。

そのため、例年であれば、

「10月後半~11月頃まで少し待つ」

という考え方にも理由があります。

一方で今年は、

「すでに流行しているのだから、今から免疫をつけておく」

という考え方にも十分な理由があります。

私自身は、今年のように9月から流行している状況では、5か月後の流行がどうなっているか分からない以上、「冬の後半まで待つ」ことだけを考えるのではなく、まず現在の流行に備えて接種する、という考え方があってよいと思います。

特に、65歳以上の方や基礎疾患のある方では、現在の流行にさらされる期間を考えると、早めの接種を検討する意味があります。

もちろん、個々の健康状態や過去の接種歴、今後の予定などによって考え方は変わります。

そして、小さなお子さんでは、フルミストも選択肢の一つです。

インフルエンザワクチンは、

「絶対にかからないためのワクチン」ではありません。

それでも、

「かかる可能性を下げる」

そして、

「かかったときに重症にならないようにする」

ための重要な手段です。

今年は、例年とは明らかに違うタイミングで流行が始まっています。

だからこそ、

「今年はいつもと違う」

ということを頭に置いて、接種するかどうか、そして接種するならいつにするかを考えていただければと思います。


参考文献・資料

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