【コラム】胸部レントゲンは本当に必要? ― 咳・気管支喘息・咳喘息・肺炎・肺がん・循環器疾患と検査の考え方

不要なレントゲンについての考え方

当院では、不要な検査はできるだけ避けるようにしています。胸部レントゲン1回の被ばく量は 0.05 mSv とごくわずかですが、それでも「不要な被ばくはゼロにする」ことを大切にしています。

ただし、胸部レントゲンに関しては「完全に不要」というケースは少ない印象があります。健診で撮ったばかりで症状がない場合には新たに撮影する必要はありませんが、症状がある場合や診療上の判断が必要な場合には、胸部レントゲンは非常に有用です。

胸部X線撮影に使用する診断用X線装置
診断用X線装置(胸部レントゲン撮影機)

症状があるなら迷わず撮る

咳が続く・発熱・呼吸困難・胸痛・体重減少などの症状がある場合、あるいは肺がんや肺炎の懸念がある場合には、胸部レントゲンを避ける理由は全くありません。

  • 肺がん: 早期発見のために不可欠
  • 肺炎: 数日で影が出ることもあり、治療効果の確認にも有用
  • 肺結核: 特徴的な陰影を見つけることで診断の手がかり
  • 気胸: 肺がしぼんでいる状態を一目で確認可能
  • 気管支喘息: 通常はレントゲンで異常は出ませんが、増悪時に「喘息だけでいいのか?」を確認するために撮影
  • 心不全: 肺うっ血や心拡大の所見が胸部レントゲンで確認できる
  • 大動脈疾患(大動脈瘤・大動脈解離など): 縦隔の拡大や異常陰影が診断の手がかりになる
  • 気管支拡張症: 気道感染を繰り返し合併すると咳・痰が増えます。胸部レントゲンやCTが診断の手がかりになります
    注:気管支拡張症の有病率は気管支喘息より低い
胸部レントゲンは「命を守るための検査」であり、症状がある場合には迷わず撮るべきです。

被ばく量と安全性

胸部レントゲンの被ばく量は自然界から受ける放射線と比べても極めて小さいものです。

総被ばく量影響の目安
2.4 mSv/年一般人が1年間に自然界から受ける放射線量(自然被ばく)
50 mSv/年健康被害はほぼなし(医療被ばくなら許容範囲)
100 mSv以上がんのリスクが統計的に有意に増える可能性
500 mSv白血球の一時的減少や長期的ながんリスク上昇が懸念される
1000 mSv(= 1 Sv)急性放射線障害(吐き気・倦怠感など)が出ることも

👉 胸部レントゲン1回は 0.05 mSv。この表と比べても安心できる量です。

CT検査と胸部レントゲンの違い

胸部レントゲンは1回 0.05 mSv とごくわずかで、肺炎や気胸など急性疾患の確認に有用です。一方、胸部CT検査は肺がんや心不全・大動脈疾患・気管支拡張症などの病変を詳細に評価でき、診断の精度を高めます。

  • 胸部レントゲン: 0.05 mSv(東京〜ハワイの航空機で受ける自然放射線と同程度)
  • 胸部CT: 約5〜7 mSv(施設・撮影法で変動)
  • 胸部〜骨盤CT: 約12〜20 mSv

👉 CTは被ばく量が多いものの、診断の利益がリスクを上回る場面では適切に選択します。症状や診療目的に応じて、胸部レントゲンとCTを使い分けます。

なぜ短期間で撮り直すのか?

病気の種類によって進行スピードが異なるため、短期間で再撮影が必要になることがあります。

  • 肺炎・気胸・出血: 数日〜時間単位で変化するため、頻回に撮影
  • 肺がん・結核: 月単位で進行するため、定期的に撮影
  • 非結核性抗酸菌症: 数か月単位で進行するため、撮影間隔は長め

特に肺炎は「昨日は影がなかったのに、今日出てきた」ということもあります。治療効果を確認するためにも、短期間で撮り直すことがあるのです。

健診後に咳が出てきた場合はどうする?

健診で胸部レントゲンを撮った直後は「安心」と感じられるかもしれません。しかし、その後に咳が続く・発熱・痰が増える・呼吸が苦しいといった症状が出てきた場合は、健診のレントゲンだけでは十分ではありません。

  • 肺炎: 健診直後には影がなくても、数日後に出てくることがあります
  • 肺がん: 健診で見逃されることもあり、症状があれば再確認が必要
  • 気管支喘息: レントゲンは通常正常。咳が長引く場合は「喘息だけなのか?」を確認するために撮影
  • 気管支拡張症: 気道感染の合併で咳・痰が増悪。感染を繰り返す場合は胸部レントゲンやCTで評価します

👉 健診直後でも症状が出てきた場合は、新たに胸部レントゲンを撮ることが必要です。

咳が長引くときに考えられる病気一覧

  • いわゆる風邪ひいたあとの咳(感冒後咳嗽): 数週間で改善することが多い
  • 気管支喘息: 発作的な咳や呼吸困難
  • 咳喘息: 喘息の一亜型で、咳だけが主症状
  • アトピー咳嗽: アレルギー体質に関連した慢性の咳
  • 咳過敏症: 咳反射が過敏になり、軽微な刺激で咳が続く
  • 後鼻漏: 鼻水が喉に流れ込むことで咳が長引く
  • 百日咳: 長期間続く特徴的な咳発作
  • GERD(胃食道逆流症): 逆流した胃酸が咳の原因になる
  • マイコプラズマ感染: 若年者に多く、咳が長引くことがある
  • 心因性咳嗽: 心理的要因で咳が持続する
  • 気管支拡張症: 気道感染を繰り返す場合に咳・痰が持続
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患): 喫煙などが原因で慢性的に咳・痰・息切れが続く
  • 慢性心不全: 肺うっ血による咳や呼吸困難が持続する
  • 肺炎: 発熱や痰を伴う
  • 肺結核: 長引く咳と体重減少
  • 肺がん: 血痰や体重減少を伴うことも

妊婦さんへの胸部レントゲン

通常の胸部レントゲンで胎児に影響が出ることはほとんどありません。必要性が高い場合には安全に配慮して実施できますが、不要な検査は避け、撮影が必要なときは腹部防護などの対策を行います。妊娠初期は特に慎重に判断し、医師と十分に相談して進めます。

まとめ

  • 症状がない場合: 健診画像を活用し、不要な撮影は避ける
  • 症状がある場合: 肺炎・肺がん・気管支喘息・循環器疾患(心不全・大動脈疾患)などの確認のため、迷わず胸部レントゲンを撮る
  • 被ばく量: 胸部レントゲンは1回0.05mSvとごくわずか。CTは約5〜7mSvで詳細評価に有用
  • 使い分け: 症状・目的に応じて胸部レントゲンとCTを適切に選択(必要時は短期間での撮り直しもあり)
  • 長引く咳: 感冒後咳嗽、気管支喘息・咳喘息、後鼻漏、GERD、COPD、慢性心不全など幅広く鑑別する

咳や胸部の不調、検査に関するご相談は、梅が丘内科とアレルギーのクリニックへお気軽にどうぞ。

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