【コラム】咳が続くとき、3週間待つべき?

 

― 咳喘息・咳過敏症・慢性咳嗽の新しい診かた ―

「風邪は治ったのに、咳だけが止まらない」
「咳喘息と診断されたけど、薬が効きにくい」
「咳が続いてつらいけど、まだ3週間経っていないから様子を見ようと思っている」

そんな声に、2025年版の「咳嗽・喀痰ガイドライン」が新しい視点を提示しています。
ただし、ガイドラインはあくまで診療の目安であり、実際の診療では“3週間待つ”必要はありません。

ガイドラインでは「3週間以上」で遷延性咳嗽

咳の期間疑われる病態
3週間未満急性咳嗽(風邪、気管支炎、肺炎など)
3〜8週間遷延性咳嗽(感染後咳嗽、百日咳など)
8週間以上慢性咳嗽(咳喘息、GERD、後鼻漏など)

「待つ」より「診る」べき咳もある

咳が激しい、呼吸が苦しい、発熱がある、夜も眠れない――
こうした症状がある場合は、肺炎や結核、肺がんなどの可能性も含めて、早期に画像検査や血液検査が必要です。

ガイドラインでも、咳の診断においてはまず「警告症状(赤信号)」の有無を確認することが推奨されています:

  • 発熱
  • 喀血
  • 体重減少
  • 呼吸困難

咳過敏症は「新しい病名」ではない

2025年版ガイドラインでは、従来の咳喘息や後鼻漏では説明しきれない慢性咳嗽に対して、「咳過敏症候群(CHS)」という病態概念に改めて焦点が当てられました。

ただし、咳過敏症という考え方は以前から存在しており、当院では長年診療に取り組んできた分野です。

  • 軽い刺激(冷気、会話、香水など)で咳が出る
  • 原因が特定できない慢性咳嗽(UCC)
  • 治療に反応しにくい咳(RCC)

今回の改訂では、RCC(Refractory Chronic Cough)/UCC(Unexplained Chronic Cough)分類が導入され、
従来の診断名に当てはまらない咳にも「咳過敏症」という共通の病態としてアプローチできるようになりました。

treatable traits:治療可能な特性に着目する

さらに今回のガイドラインでは、「treatable traits(修正可能な特性)」という考え方も導入されました。

これは、病名にとらわれず、患者さんごとに異なる症状や背景因子(気道炎症、逆流、後鼻漏、咳反射過敏など)を見極めて、
個別に治療戦略を立てるアプローチです。

当院ではこの考え方をもとに、咳の性質や誘因、既往歴、生活背景などを丁寧に評価し、
「その人にとっての治療すべき要素」を見極めて対応しています。

新しい治療選択肢も登場

咳過敏症に対しては、従来の吸入ステロイドや抗アレルギー薬だけでなく、
P2X3受容体拮抗薬(ゲーファピキサントなど)のような新しい治療薬も登場しています。

当院では、症状や背景に応じて、こうした選択肢も含めた個別化治療を行っています。

咳が続くときは、期間に関係なくご相談を

咳が長引くとき、「まだ3週間経っていないから…」と我慢する必要はありません。
むしろ、症状が強い・生活に支障がある・夜間に悪化するなどの特徴があれば、早めの評価と治療が重要です。

こんな方は早めにご相談ください

  • 咳が2週間以上続いている
  • 咳喘息の治療で改善しない
  • 咳の原因がわからないと言われた
  • 会話や冷気で咳が出る
  • 咳で眠れない・日常生活に支障がある
  • 発熱や呼吸困難などの症状がある

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