肺がん

医師と患者が向き合い、手を重ねて安心感を伝える様子

alt:肺がんについて医師が患者に説明している様子

肺がんの症状・検査・治療・肺がん検診について

肺がんは、日本人にとって身近ながんの一つです。

「肺がん」と聞くと、すぐに命に関わる病気というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、肺がんはすべて同じではなく、がんの種類や進行度、遺伝子の変化などによって、治療方法や経過は大きく異なります。

また、肺がんは早期には症状が出ないことも少なくありません。

長引く咳や血痰などの症状がある方だけでなく、喫煙歴がある方や健康診断で胸部X線の異常を指摘された方は、適切な検査を受けることが大切です。

ここでは、肺がんの症状、原因、検査、種類、治療、肺がん検診について、呼吸器内科の立場からわかりやすく説明します。


1. 肺がんとは?

肺がんとは、肺の細胞の遺伝子にさまざまな変化が起こり、細胞の増殖をコントロールする仕組みが壊れることで発生するがんです。

私たちの体では、細胞が古くなると新しい細胞に入れ替わります。

通常は、細胞が増えすぎないように遺伝子によって厳密にコントロールされています。

しかし、細胞のDNAにさまざまな遺伝子変異が起こり、それが長い時間をかけて蓄積すると、細胞の増殖を抑える仕組みがうまく働かなくなることがあります。

その結果、細胞が異常に増殖し、がんが発生します。

肺がんは「遺伝子の病気」ですが、「遺伝する病気」とは違います

「がんは遺伝子の病気」と聞くと、

「親からがんになりやすい遺伝子を受け継いだから、がんになるのでは?」

と思う方もいるでしょう。

ここは少し分けて考える必要があります。

がんは確かに遺伝子の病気です。

しかし、それは必ずしも「親から子へ遺伝する病気」という意味ではありません。

親から受け継いだ遺伝的な体質が、がんの発症に関係する場合もありますが、肺がんの多くでは、生まれた後に肺の細胞のDNAに後天的な遺伝子変異が蓄積することが発がんに関係しています。

その代表的な原因が喫煙です。

たばこの煙には多くの発がん物質が含まれています。

長期間にわたってたばこの煙にさらされることで、肺の細胞のDNAに遺伝子変異が蓄積し、がんの発生につながることがあります。

実際に、国立がん研究センターなどの研究では、喫煙者のがんでは非喫煙者と比べて遺伝子変異が多く、喫煙量が多いほど肺の細胞に蓄積する変異が増えることが報告されています。

イメージすると、

喫煙などの発がん物質への曝露
↓
肺の細胞のDNAに傷・遺伝子変異が起こる
↓
さまざまな遺伝子変異が蓄積する
↓
細胞の増殖をコントロールできなくなる
↓
がん細胞が生じる

という流れです。

ただし、肺がんは喫煙者だけに起こるわけではありません。

特に肺腺がんでは、喫煙したことがない方にも発症することがあります。

また、受動喫煙も肺がんの危険因子です。国立がん研究センターの研究では、受動喫煙を受けた非喫煙者の肺腺がんで、遺伝子変異がより多く蓄積していることが報告されています。

肺がんは、肺の入り口にあたる気管支や、肺の奥にある肺胞などの細胞から発生します。

がんが進行すると、周囲の組織に広がったり、リンパ管や血管を通って、リンパ節、肺の別の場所、胸膜、骨、脳、肝臓、副腎などに転移したりすることがあります。

一方で、肺がんは早期に発見して適切な治療を行うことで、治癒を目指せる病気でもあります。


2. 肺がんの症状

肺がんは、初期には症状がないことが少なくありません。

そのため、症状がない段階で肺がん検診や健康診断によって発見されることがあります。

一方、肺がんが進行すると、次のような症状が現れることがあります。

  • 長引く咳
  • 痰が続く
  • 血痰(痰に血が混じる)
  • 息切れ・息苦しさ
  • 胸の痛み
  • 声のかすれ
  • 原因のはっきりしない体重減少
  • 疲れやすい、体がだるい

特に、

「これまでになかった咳が長く続く」
「血痰が出た」
「以前より息切れしやすくなった」
「胸の痛みが続いている」

といった変化がある場合には、一度医療機関を受診してください。

ただし、これらの症状があるからといって、すぐに肺がんというわけではありません。

咳は、喘息、咳喘息、COPD、肺炎、気管支炎、後鼻漏など、さまざまな病気で起こります。

血痰も、肺がんだけでなく、気管支炎や肺炎などでみられることがあります。

大切なのは、症状を自己判断で放置せず、必要な検査を受けることです。

肺がんが進行して他の臓器へ転移すると、転移した場所によって症状が現れることがあります。

例えば、脳への転移では頭痛や神経症状、骨への転移では背中や腰などの痛みがみられることがあります。

「風邪だろう」「年齢のせいだろう」と決めつけず、気になる症状が続く場合にはご相談ください。


3. 肺がんの診断

肺がんの診断では、画像検査だけで肺がんと確定することはできません。

症状や胸部X線検査などから肺がんが疑われた場合には、胸部CT検査などで詳しく調べ、必要に応じて細胞や組織を採取して病理検査を行います。

1. 胸部X線検査

いわゆる「レントゲン検査」です。

健康診断や肺がん検診でも行われる基本的な検査で、肺に異常な影がないかを確認します。

ただし、小さな肺がんなど、胸部X線検査だけでは見つけにくい病変もあります。

2. 胸部CT検査

胸部CTでは、肺を断面画像として詳しく見ることができます。

胸部X線で異常が見つかった場合や、症状などから肺がんが疑われる場合には、CT検査を行います。

CTでは、肺の病変の大きさや位置だけでなく、周囲のリンパ節などについても詳しく調べることができます。

肺がんの検査について詳しく知りたい方は、国立がん研究センターの「肺がん 検査」も参考にしてください。

国立がん研究センター|肺がんの検査

3. 病理検査

CTなどで肺がんが疑われた場合には、がん細胞が存在するかどうかを確認するため、細胞や組織を採取して病理検査を行うことがあります。

代表的な方法には、

  • 気管支鏡検査
  • 経皮的針生検
  • 胸腔鏡検査

などがあります。

病理検査では、がんの有無だけでなく、肺がんの種類や性質、治療薬の選択に関係する遺伝子の変化などを調べることがあります。

4. がんの広がりを調べる検査

肺がんと診断された場合には、治療方針を決めるために、がんがどこまで広がっているかを調べます。

必要に応じて、

  • 造影CT検査
  • 脳MRI検査
  • PET/CT検査
  • 骨シンチグラフィ

などを組み合わせます。

どの検査を行うかは、肺がんの種類や病期、患者さんの状態によって異なります。


4. 肺がんの種類

肺がんは大きく、

  • 非小細胞肺がん
  • 小細胞肺がん

に分けられます。

非小細胞肺がん

非小細胞肺がんには、主に次のような種類があります。

腺がん

肺の末梢側に発生することが多い肺がんです。

肺がんの中でも多いタイプで、喫煙しない方にも発症することがあります。

扁平上皮がん

気管支に近い場所に発生することが比較的多く、喫煙との関連が強い肺がんです。

その他の非小細胞肺がん

腺がんや扁平上皮がんに分類されないタイプもあります。

現在の肺がん診療では、単に「肺がん」というだけでなく、病理検査によって細かく分類し、遺伝子の変化なども調べたうえで治療方針を決めることが重要になっています。

小細胞肺がん

小細胞肺がんは、増殖が速く、早い段階からリンパ節や他の臓器へ転移することがあります。

喫煙との関連が強い肺がんです。

肺がんは種類によって治療方法が大きく異なるため、正確な診断が重要です。


5. 肺がんの治療

肺がんの治療は、がんの種類、病期(ステージ)、遺伝子の変化、患者さんの全身状態などを総合して決めます。

主な治療には、

  • 手術
  • 放射線治療
  • 薬物療法

があります。

1. 手術

がんが肺や周囲の限られた範囲にとどまっている場合には、手術によってがんを取り除くことがあります。

手術では、がんの場所や大きさなどに応じて、

  • 肺の一部を切除する
  • 肺葉を切除する
  • 必要に応じて肺全体を切除する

などの方法が選択されます。

近年では、胸腔鏡手術やロボット支援手術など、身体への負担を抑えることを目指した手術も行われています。

2. 放射線治療

放射線をがんに照射して、がん細胞を破壊する治療です。

手術が難しい場合や、手術と組み合わせて行う場合、進行した肺がんの症状を和らげる目的など、さまざまな場面で使用されます。

近年は、病変の位置や大きさに合わせて放射線を集中させる治療技術も進歩しています。

3. 薬物療法

進行した肺がんでは、薬による治療が重要になります。

主なものとして、

  • 細胞障害性抗がん薬
  • 分子標的治療薬
  • 免疫チェックポイント阻害薬

などがあります。

肺がんでは、がん細胞の遺伝子の変化を調べ、その結果に応じて使用する薬を選択する場合があります。

つまり現在の肺がん治療は、単純に「抗がん剤を使う」というものではなく、がんの性質を詳しく調べ、一人ひとりに適した治療を選択する方向へ進んでいます。

肺がんの遺伝子検査では、EGFR、ALK、ROS1、BRAFなど、治療薬の選択に関係する遺伝子の変化を調べることがあります。

治療方法は、肺がんの種類やステージによって大きく異なります。

そのため、肺がんと診断された場合には、まず「どの種類の肺がんで、どこまで広がっているのか」を正確に調べることが大切です。

ステージIVの肺がんでも、長期生存できる時代になってきました

以前は、肺がんがステージIVまで進行していると、「治すことは難しく、長く生きることも難しい」というイメージが強くありました。

しかし、肺がんの薬物療法はこの10~20年で大きく進歩しています。

現在では、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など、がんの性質に合わせた治療が行われるようになり、ステージIVの肺がんでも、長期間にわたって病気をコントロールできる患者さんが増えてきています。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬である”ニボルマブ(オプジーボ)”を含む治療では、転移性(ステージIV)の非小細胞肺がんを対象とした臨床試験で、5年以上生存する患者さんが確認されています。

CheckMate 227試験では、ニボルマブ+イピリムマブによる治療を受けた患者さんで、5年後も生存している患者さんが一定数認められました。さらに、5年生存した患者さんの中には、その後3年以上、追加の全身治療を受けずに過ごしている方もいました。

日本人を対象とした長期追跡でも、ニボルマブ+イピリムマブによる治療を受けた患者さんでは、5年生存率がPD-L1陽性例で46%、PD-L1陰性例で36%と報告されています。

もちろん、これはすべてのステージIV肺がん患者さんが長期生存できるという意味ではありません。

肺がんの種類、遺伝子の変化、PD-L1の発現、転移の場所、患者さんの体の状態などによって、治療効果は大きく異なります。

それでも、以前は「ステージIV=残された時間が限られている」と考えられることが多かった肺がんが、現在では、治療によって長期間病気をコントロールし、何年にもわたって生活できる患者さんが実際に出てきていることは、肺がん治療における大きな変化です。

「ステージIVと言われたから、もう何もできない」と考えるのではなく、肺がんのタイプや遺伝子の変化などを詳しく調べ、自分に適した治療方法を検討することが重要です。

 


6. 肺がん検診 ~早期発見のために~

肺がんは、早期には自覚症状がないことが少なくありません。

そのため、症状がない段階で肺がんを発見するために、肺がん検診が行われています。

肺がん検診は何歳から?

日本の肺がん検診では、40歳以上の方を対象に、1年に1回の受診が基本です。

現在、国が推奨している肺がん検診は、問診と胸部X線検査です。

肺がん検診について詳しく知りたい方は、国立がん研究センターの情報もご覧ください。

肺がん検診|梅が丘内科とアレルギーのクリニック

国立がん研究センター|肺がん検診について

CT検査を受ければよいの?

「肺がんを早く見つけるために、毎年CTを受けたほうがいいのでは?」

と思われる方もいるかもしれません。

しかし、すべての人に低線量CT検査を行えばよいわけではありません。

CTには胸部X線より多くの情報が得られる一方、放射線被ばくや、良性の病変まで見つけて精密検査が必要になる可能性などもあります。

そのため、年齢や喫煙歴、症状などを考慮して、どの検査が適切なのかを判断することが大切です。

症状がある場合は「検診」ではなく「診察」を

ここは非常に重要です。

血痰、長引く咳、胸の痛み、声のかすれ、息切れなどの症状がある場合は、肺がん検診を待つのではなく、医療機関を受診してください。

肺がん検診は、基本的に症状のない方を対象とした検査です。

症状がある場合には、その症状の原因を調べるための診察や検査が必要になります。

また、検診で「要精密検査」と判定された場合には、症状がなくても必ず精密検査を受けてください。


7. 肺がんを予防するために

禁煙マークのサインを手に持つ人。赤い円と斜線でタバコが禁止されていることを示す標識。

● 禁煙する

肺がんを予防するうえで、最も重要なことの一つが禁煙です。

たばこの煙には多くの発がん物質が含まれており、長期間の喫煙によって肺の細胞に遺伝子変異が蓄積することが知られています。

また、受動喫煙も肺がんのリスクとなります。

「今さら禁煙しても意味がない」と思われる方もいるかもしれませんが、禁煙には健康上のメリットがあります。

禁煙を考えている方は、禁煙外来などの医療機関に相談してください。

● 肺がん検診を受ける

40歳以上の方は、年1回の肺がん検診を受けることが基本です。

特に喫煙歴がある方は、自分の肺がんリスクについて一度医師に相談してみるとよいでしょう。

● 気になる症状を放置しない

肺がんは、初期には症状がないことがあります。

一方で、長引く咳や血痰、息切れなどが肺がんのサインとなることもあります。

「風邪だろう」「年齢のせいだろう」と自己判断せず、症状が続く場合には医療機関を受診してください。


8. 肺の症状が気になる方へ

肺がんだけでなく、長引く咳、喘息、咳喘息、COPD、肺炎など、呼吸器にはさまざまな病気があります。

当院では、咳や息苦しさ、痰などの呼吸器症状について診療しています。

肺の症状について詳しく相談したい方は、当院の**呼吸器内科**をご覧ください。

また、当院の診療内容やアクセスなどについては、**梅が丘内科とアレルギーのクリニック**のホームページをご覧ください。

「長引く咳がある」「血痰が出た」「健康診断で胸部X線に異常を指摘された」など、気になることがあれば、早めにご相談ください。

参考情報